神官ロザリー
「キリカといい、ドロテアといい、なぜあんな馬鹿なことをしでかしてしまったのか……」
はあ、とため息をついたあと、ゆっくりとお茶を飲むロザリー。ユーリも自分のティーカップを持ったままうつむいた。
二人が飲んでいるのはもちろん異物が混入していないお茶だ。
ドロテアとのお見合いの名残で少々散らかっていたテーブルの上をアンナが素早く片付け、新たにユーリとロザリーのためのお茶を用意したのである。
「誠実な態度で臨めば、結果は変わったかもしれないというのに……愚かなことです」
青い瞳に悲しみを湛え、先ほどから神官のお手本となるようなことを口にしているロザリーであったが。
実は、ロザリーはそんじょそこらの女とは比較にならないほどの、ドスケベボディの持ち主であった。しかもなぜか体にぴっちりとフィットする衣装を身に着けている。本人にはまったくその自覚がない。
聖的な言葉が性的な体から発せられるのだ。そのアンバランスさに大抵の男はクラクラしてしまう。もちろん勇者ユーリとて例外ではない。
あまりじろじろ見てはいけないと自制するユーリであったが、ついちらちらと豊満な胸に目をやってしまい、慌てて目を逸らすという行為を繰り返している。年頃の男なのでしかたないことであった。
そんな葛藤を知ってか知らずか、ロザリーは居住まいを正してユーリをまっすぐ見据えた。
「まず、あなたに言っておかなければならないことがあります……」
改まった声に、ユーリもあわててロザリーの顔を正面から見つめ返した。
一体何を言うつもりなのだろうとユーリが身構える中、ロザリーは目を閉じてすううと息を吸い込んだあと、何やら決意したのか両の瞳と口とを開き。
「わたくしは、神に処女を捧げました!」
白昼いきなりの爆弾発言。
ユーリはまず目をまん丸にし、続いてその言葉からある行為を思い浮かべてしまい、たちまち顔を真っ赤にする。ちなみに、顔を赤くしたのはロザリーも同じだった。
「あ、精神的な意味で、ですけれども……肉体的には、その、まだ誰ともいたしたことはありませんが……」
先ほどのはしたない発言に、もじもじしながら小さく付け加えるロザリー。その告白により彼女とユーリはますます恥ずかしい気持ちになった。
「あー、おほん、おほん」
わざとらしい咳払いによって、ロザリーは少なくとも表面上は平静さを取り戻した。
「……というわけで、あなたのことはお慕い申し上げているのですが、夫婦になることは教義上、困難なことだと言わざるを得ません……」
心底残念そうに、心情を吐露するロザリー。
「でも、きっと100年も経てば神もお許しになると思います。それまで待っていてくださいますか?」
潤んだ瞳でユーリを見つめるロザリー。
類まれなるスタイルを持った絶世の美女に、こんなことを言われて断れる男がいるであろうか?
しばらく静かな時間が経過する。
……ユーリはやがて、首をゆっくりと横に振り、受け入れられないという意思を示した。
やはり、たとえどんな美女であったとしても、おばあちゃんになるまで待つことは出来ないということである。