結界術師バリアソナタ
真っ白な髪の毛が、犬の体毛のように頭から腰までの半身を覆っている。
髪の毛によって右目は隠れているが、隠れていない左目はまぶたが閉じられており、口から漏れる規則正しい呼吸音から、眠っていることが分かる。
彼女は結界術師バリアソナタ。
白髪なこともあって、うたたねをする老人のようだが、彼女はユーリとほぼ同年代だ。
彼女たちが張る結界は、王都にとって害悪であると判定されたモンスターだけを阻む性質を持っている。
害悪だと判定されていないモンスターは結界に阻まれることなく、自由に通り抜けることが可能だ。
先日のサキュバスについては『害悪だ』という意見と『無害だ。いやむしろ必要な存在だ』という意見が未だに平行線で結論が出ておらず、猶予期間が続いていた。
そんな結界を張ることに加えて、維持する任についているのが彼女たち結界術師だ。
結界術師は生命エネルギーのほとんどを結界を維持することに使うため、余計な体力を使わないよう普段はこうして眠りについていることが多い。
お見合いの予定を入れていたバリアソナタは、複数の衛兵によって眠った状態で担ぎ込まれ、椅子に座らされた。
そしてユーリとアンナが見守る中、未だにすやすやと寝息を立てているのだが……。
突如、ぱちり、とその目が開いた。
寝ぼけ眼がやがて焦点を結び、正面にいるユーリの姿を捉える。
「ええっと……お見合い、するんだよね?」
おずおずと尋ねたユーリだったが、バリアソナタはなぜか首を左右に振った。
「……あたしもお見合いしてみたかったけど、それは難しくなった……緊急事態発生……」
「緊急事態?」
ゆっくりのんびりとした彼女の言動に、いったい何が緊急事態なのだろうと再確認の意味も込めてオウム返しで尋ねるユーリ。
しかし、続く彼女の言葉はそんなユーリを瞠目させるものであった。
「……結界が……破られた……」
「え……まさか、王都を守ってる結界が!?」
「……うん……パリーンって……」
――結界ってそんな破れ方するの!?
新たな疑問が湧いたユーリだったが、さすがに今はそれを確かめる余裕はなさそうである。
「い、一体誰が!? もう魔王はいなくなったのに!」
「……この感触は……ドラゴン……」
「ドラゴン!?」
「……しかも最高位の……魔竜……」
その時、バリアソナタの推測を裏付ける不吉な咆哮が空より響いた。




