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占星術師オーガスタ

「お久しぶりです、ユーリさん。ドロテアとはうまくいかなかったと聞きましたが……」


 四角い眼鏡の奥に理知的な光をたたえた女性、占星術師オーガスタはユーリの知人でもあった。彼女と知り合ったのは、今オーガスタが口にした魔女ドロテアを通してのことである。そのこともあってドロテアとの経緯が気になったのだろう。


 オーガスタの言葉にユーリはやや力なくそれを認める返事をした。破局とはちょっと違うが、結果的にお見合いがうまくいかなかったのは事実だ。

 ユーリの答えを聞いて、オーガスタはうつむき加減に目を伏せた。


「……そうですか。それはドロテアも気の毒でしたね」


 オーガスタはドロテアに同情するような言葉を口にする。

 しかしそのじつ、彼女は憂いの下に毒の笑顔を隠していた。

 オーガスタとドロテアの二人は犬猿の仲だったからである。ドロテアがユーリに彼女を紹介した理由も、その時は急ぎの依頼で他に選択肢がなかったからであった。二人ともユーリの前ではそんな態度を見せないようにしていたので、ユーリは二人の間にただよう緊張感に気づいたことはなかった。


 ――ドロテアが手に入れ損ねた至宝、この私が手に入れてやる……!


 そんな感情をおくびにも出さず、オーガスタはユーリに改めて視線を向けた。そして穏やかな笑みを浮かべ、予定していた行動を実行しはじめる。


「ユーリさん、私と一緒にバルコニーに出ていただけますか?」

「もちろんかまいませんよ、オーガスタさん」


 特に断る理由もないユーリは、オーガスタと一緒にバルコニーへと出た。アンナも距離をとって付いてくる。

 今は陽が落ちてだいぶ経ち、辺りを暗がりが支配していた。オーガスタが前もってこの時間を指定したのだ。夜空にはいくつもの星が輝いている。


「あそこにある青い星と赤い星をごらんください」


 片手で手すりをつかみ、もう片方の手で星空を指さすオーガスタ。

 そこには彼女の言う通り、ひときわ目立つ青い星と赤い星がある。ふたつは双子星のように、寄り添って輝いていた。


「あの青い星がユーリさん、そして隣の赤い星が私を表しているのです」


 やや誇らしげに語るオーガスタの横顔を、ユーリは少しぼーっとしながら見つめていた。オーガスタもドロテアに負けない美貌の持ち主だ。ユーリが見とれても無理はない。

 ユーリから注がれる熱い視線に勝利を確信しながら、オーガスタは続ける。


「二つの星の位置からみても、ユーリさんと私の相性はこれ以上ないくらい最高だと言ってよいでしょう。そう、まさに今が結婚に適した時なのです」


 彼女が自信満々に言い切ったその刹那。

 唐突に、赤い星が夜空を流れるように走り、遠くの地に落ちて衝撃と爆音をその周辺にまき散らした。

 何者かがメテオの魔法を使い、赤い星を地に落としたのである。

 この王都でそんな高位の魔法を使える者は一人しかいない。


 そう、魔女ドロテアだ。


「なんでよ! なんで邪魔すんのよ!」


 もちろん嫌がらせである。女の嫉妬は恐ろしい。

 手すりに両手をついて上半身を乗り出し、どこかにいるであろうドロテアに向かってヒステリックに叫ぶオーガスタ。


「ばーかばーか! そんな性悪しょうわるだから誰ともうまくいかないのよ! ざまーみろ! このクソ女!」


 そのままの体勢で、オーガスタは夜のとばりを相手に大声でひたすら罵声を浴びせ続ける。

 先ほどまでの理知的な占星術師の姿はどこにもなかった。

 しばらくの間、美しい星空の下、オーガスタの醜い恨み言がこだました。


 悪口のネタが尽きたのか言いたいことはすべて言い終えたのか、はあはあと息を切らしながら、彼女はようやくバルコニーの内側へと向き直った。

 そして、自分がユーリの前であるまじき醜態をさらしたことに、今更ながら気づく。

 オーガスタは震える指でずれていた眼鏡の位置を戻し、喉の奥から絞りだすように声を出した。


「……今日は星の位置が悪かったようです……二つの星が新たに邂逅かいこうする時にまたお会いしましょう」


 さすがにそれはもう無理じゃないかな……と思ったユーリだったが口には出さず、立ち去る彼女を見送った。

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