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戦士キリカ

 赤毛の戦士キリカ。


 褐色の肌をもつ長身の美人であるが、お姉さんというより女傑といった言葉が似あう女である。

 全身は筋肉質で無駄な脂肪はほとんどなく、ところどころついた傷跡が歴戦の勇士であることを物語っている。

 いわゆるビキニアーマーと呼ばれる鎧を着ており、むき出しのお腹は見事なまでのシックスパックであった。


 キリカはユーリとテーブルを挟んで向かい合う形で、足を組んでふんぞり返るように椅子に座っている。

 ふん、という鼻息のあとに、キリカはユーリに自分の思いのたけを喋りはじめた。


「パーティーを組んでモンスターたちと戦っていたあの頃、ワタシはいつもオマエを脳内でめちゃくちゃにしていた」


 耳を疑うような第一声にユーリが一瞬ぽかんとし、みるみる恐ろしいものを見るような目つきになっていった。脇に控えているアンナも警戒心を露わにしている。

 さすがに飛躍しすぎたかと考えたキリカは、少しの逡巡の後、安心させるためか小さく笑みを浮かべた。


「もちろんここで言うめちゃくちゃとは、主に気持ちいいことを指している。痛いことや、つらいことではなくてな」


 フォローと言えるかどうか怪しい解説を付け足しながら、キリカは上機嫌を崩さない。それとは正反対に、ユーリとアンナの顔から不安が消えることはなかった。


「当時は手出しできなかった。オマエのほうが強かったからな」


 キリカももはや二人の反応を気にしていないらしい。自分が言いたいことだけをまくしたてている。


「しかし今のオマエなら、もはやワタシが遅れをとることもない!」


 キリカが椅子から勢いよく立ち上がる。


「さあ、ワタシのものとなれ!」


 そして大股でユーリの元へと近づこうとした時、二人の間にすばやく割って入った者がいた。


「ア、アンナさん!?」


 ユーリは驚きで目を見張った。

 両手を広げたアンナがユーリを守ろうと胸をそらして立っている。

 その後ろ姿がかすかに震えていることが、ユーリの目から見ても分かった。


「ふん……ただのメイドであるオマエがワタシを止められるものか! 怪我したくなかったら大人しくどいていろ!」


「いいえ。どきません」


 毅然としたその言葉に、キリカはモンスターもかくやというほどの邪悪な笑みを浮かべた。


「見上げた度胸だ。気に入った。オマエは誰よりも早く殺してやる」


 もはや悪人としか思えないセリフを吐きながらアンナに迫るキリカ。

 おかしい。この女は本当に勇者の仲間だったのだろうか?


 彼女の発言を聞いて、今度はユーリがアンナとキリカの間に割って入る番だった。ユーリは自分よりもはるかに高い背丈の女を、きっと睨みつける。


 キリカは自ら飛び込んできた獲物に舌なめずりをし……。


「うおっ!? ……なんだ!?」


 キリカの体が、突然宙に浮いた。

 驚き慌てる彼女の全身に、光輝くムチのようなものがいくつも絡みついている。


「くっ……これはまさか……ドロテア、オマエか!?」

「ええ、もちろん私よ。残念だったわね、筋肉おバカさん?」


 いつの間にか開いていた扉の向こうに、ユーリの仲間である魔女ドロテアが立っていた。

 光条のような複数のムチは、ドロテアがかざす小ぶりな杖から伸びている。それらを生み出す杖の先端は球状の光が灯っており、彼女の魔力が集中しているのがわかる。


「くそっ……放せ!」


 キリカは悪態をつきながらもがくが、魔力で生まれた束縛は膂力りょりょくでどうにか出来るようなものではなく、ドロテアが杖の角度を変えるだけでキリカはさらに高く浮かんだ。

 そのままバルコニーのほうへ歩いていくドロテア。もちろん宙にキリカを捕えたままだ。

 ちなみにここは二階である。


 ひょっとしてバルコニーの下に落とすつもりか? まあそれくらいの衝撃なら耐えられると楽観視していたキリカだったが……。


 澄み渡る青空の下、ドロテアは空いた左手で優雅に髪をかき撫でつつ、にこやかな笑みを浮かべて無様に束縛されているキリカを見上げた。


「山奥にでも送ってあげるわ。あの世じゃないだけ感謝しなさいよ?」

「……!? まっ、待て! ドロテア!」

「うふふ……だあめ。待たない」


 予想外の言葉に慌てるキリカだったが、とりつく島もない。


 ドロテアは自分がコントロールする光のムチを、投石器のように大きくしならせた。


「ああ……! ユーリ、ワタシはオマエのことをーーーーーーーーーー!!」


 死んだわけではなさそうだが、断末魔の叫びのようなものをあげながらキリカは遠くに放り投げられた。

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