呪術師ノーマ
「この部屋は呪われています!」
呪術師を名乗る女ノーマが部屋に入ってくるなり、四方を見渡しながらそう叫んだ。
たしかにそうかもしれない、とユーリは彼女の言葉に心のなかで頷いてしまう。そう思うだけの出来事がこれまで立て続けに起こったからである。
ユーリ、アンナのどちらも、このノーマのことはまったく知らない。つい先日、王都の外からやってきたのだそうだ。
ノーマはあたりに配っていた視線をユーリに向けた。たちまち恐ろしいものを目にしたような表情になる。
「そして、その呪いがユーリ様、いつの間にかあなたをも蝕んでいるのです!」
「え、ええっ!?」
予想外の言葉に驚くユーリ。そんな反応を見て満足げにノーマはにこりと微笑んだ。
「でも私と結ばれることで、きっとその呪いは浄化されるはずです! 呪術師の私には分かります!」
聞いたこともない浄化の方法に、ユーリもアンナも目が点になってしまう。
「ああ、私がたまたまこの国を通りかかった意味がようやく分かりました! 私はあなたの呪いを祓うために、ここに導かれたのです!」
そんな二人の様子に気づいているのかいないのか、オーバーアクションで天を仰ぐような仕草をするノーマ。
やがて何のリアクションもないことがじれったくなったのか、ノーマはようやくユーリを振り返る。
そこには明らかに疑惑の目を向けているユーリの姿があった。
「おや、ひょっとして疑っているのですか? まあ無理もありませんね」
想定内のことだったのか、ノーマは動じる様子もない。
「今から私が、呪いの元凶を探り当てて見せましょう!」
そう言うと何かに集中するかのように、ノーマは目を閉じた。
「むむ……むむむ……」
ノーマの口からしばし、小さなつぶやきが漏れだし……。
突如、ノーマはかっと目を見開いた。
「感じます……こっちの方角……むむ……わかりました! あの壁に飾ってある絵画! あれこそが呪いを発している!」
びし! と絵画を指さし、すぐさまそのそばへと駆け寄ると、絵画を壁から外しはじめた。
「この絵画のどこかに、きっと呪いを生み出す元凶が……! ……あ、あれ?」
「……おかしい、昨日たしかにここに貼っておいたはずなのに……とでも思いましたか?」
背後から聞こえてきた言葉に、呪術師の心臓は誇張表現でもなく大きく跳ね上がった。慌てて声の方へ振り向き、視線が声の主――アンナの右手に釘付けになる。
アンナがいつの間にか手にもっているものは、まさしく昨夜ノーマが絵画の裏に仕込んだはずの、呪いの札であった。
ユーリは驚愕の目でアンナを、そしてノーマを交互に見つめている。
――屋敷に忍び込んだ時は誰にも気づかれた気配はなかったのに……!
ノーマは予想外の事態に直面して次の行動に移れない。
アンナはぞくぞくするような冷笑を浮かべ、部屋の隅でねずみを追い詰める猫のように、ゆっくりと足を一歩踏み出した。
「さて、どうしましょう? 今すぐこの呪いを祓いますか? それとも、あなたという呪いを今すぐ祓ってあげましょうか?」
「は、はは……ど、どうやら何か誤解されているようで……きょ、今日は私の呪いを祓う力が何者かに邪魔されて発揮できないようです……これにて失礼します!」
呪術師なのか詐欺師なのか分からない女は、言い訳にもならないセリフをまくしたてながら慌てて扉の外に駆け出していった。
……が、しかし。
すでに待ち構えていた衛兵たちに取り囲まれ、あえなく御用となってしまう。
事の始終を見守っていることしかできなかったユーリは、尊敬のまなざしでアンナを見つめた。
「アンナさん、すごいね! いつ気づいたの?」
「今日の朝、絵を見た時すぐに、です。角度がわずかにずれていましたので。……そうそう、不法侵入があったということで、夜間の警備を厳重にするようお願いも済ませておきました」
「さすがアンナさんだね!」
「ふふ、どういたしまして」
謙遜するかのように、アンナは控え目に微笑んだ。




