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花屋デイジー

「ユ、ユーリ様! ど、どちらかを選んで受け取ってください!」


 花屋のデイジーは、部屋に入ってくるとあいさつもそこそこに、勢いよく両腕をユーリに差し出した。

 その右手にはピンク色の花が、左手には水色の花が握られている。

 デイジーはその体勢のままうつむいて、ユーリと視線を合わせることもしなかった。全身に緊張を巡らせたその体はかすかに震えている。


「あ、ありがとう……」


 ユーリは面食らいながらも、己の右手を彼女へまっすぐ伸ばし、花を受け取った。

 つまり、デイジーからすると左手に持っていた水色の花を取ったということである。


「あ、ああ……ああああああああ…………」


 顔をあげたデイジーは、ユーリが手に持つ水色の花と、自分の手に残るピンク色の花とを交互に見た。そして、呆然とした様子で一歩、二歩と後ずさる。


「デ、デイジー?」


 デイジーの常軌を逸した挙動にユーリが声をかけるが、彼女はもはやユーリの声も耳に入っていなかった。


「……わ、私の恋は実りませんでしたああああああああああ!!」


 そんなことを叫びながら、デイジーはきびすを返すと全速力で走り去っていってしまった。

 あとにはぽかんとするユーリ、そしていつもと変わらない表情のアンナが残される。


「な、なんだったんだろう?」


 ユーリは彼女が出て行った扉をしばらく見つめた後、自分の手に残る水色の花に視線を落とす。

 ユーリはピンク色の花のことはまったく知らなかったが、水色の花のことは知っていた。子供のころ、いつも遊んでいた野原にたくさん生えていたのだ。そのことを懐かしく感じたユーリはそちらを選んだのだが。


 アンナはユーリ以上にそれらの花のことを知っていた。……それぞれの花が持つ花言葉についても。


 ピンク色の花は『あなたを愛します』。

 水色の花は『あなたに興味がありません』……。


「……ご縁がなかった、ということでしょう。お茶でも入れますね」


 アンナはユーリに対して特に何かを言うこともなく、お菓子とお茶の準備をし始めた。


 ……ユーリがもし花言葉を知っていたら、デイジーの運命は変わったのだろうか? それとも……。

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