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鍛冶屋ベアトリーチェ

「勇者としての力を失ったんだってね。あたいと結婚して一緒に鍛冶屋でもやってみる?」


 冗談なのか本気なのか、鍛冶屋のベアトリーチェは朗らかに笑いながらユーリを勧誘する。


 冒険を始めた頃のユーリたちは、彼女の鍛冶の技術によって生まれた武器防具にお世話になっていた。

 ユーリたちがやがてダンジョンの奥深くで伝説の装備を手に入れるようになってからは、ベアトリーチェの工房を訪れる回数は減っていたが。

 それでも時々こまごまとした道具の制作を依頼しに行くことがあり、そんな仕事も彼女は笑って引き受けたものだった。


「遠い国のお話なんだけどね、昔、有名な鍛冶屋の夫婦がいてさ。すごい剣を作ったらしいんだけど」


 ベアトリーチェはいつものように、快活におしゃべりを続けている。


「王様といさかいを起こして殺されちゃったんだって。まったく、王様って奴はいつの時代もひどいことするよね! ……あ、この国の王様は別だよ! 言わなくても分かってると思うけど!」


 今いる場所が国王から貸与された別荘であること、国から雇われているアンナがいることを思い出し、慌ててごまかし笑いで付け加えるベアトリーチェ。

 ユーリもアンナも、もちろんさっきの発言をとがめるような無粋なまねはしなかった。


「それで話を戻すけどさ、そんな夫婦みたいに、すごい武器を作れたらいいなって思うわけ! あたいとユーリでね!」

「鍛冶屋か……それはちょっと興味あるかも。実は、工房でハンマーを振るうベアトリーチェの姿に憧れてたんだ」

「ほ、ほんとに!? あはっ……それはあたいも嬉しいなあ! ユーリが乗り気なら、さっき言ったあたいの夢も叶うかも!」


 存外乗り気なユーリの返答に、ベアトリーチェは一瞬目を丸くしたあと、花が咲くように笑っていっそう饒舌になった。


「最初は弟子として扱うけどね。あたいは厳しいから覚悟してもらわないと。でもユーリならきっとすごい鍛冶師になれるよ! だって魔王を倒すまであきらめなかった強い男の子なんだからね!」


 褒められてまんざらでもないユーリ。そんなユーリを見てベアトリーチェはますます上機嫌になる。


「二人で仲良く鍛冶屋を盛り上げて、工房も大きくして……楽しみだなあ!」


 ユーリとて男の子である。すごい武器をこの手で生み出すということにロマンを感じないわけがない。ベアトリーチェの夢物語を自分のことのように、にこにこしながら聞いていた。


「あたいとユーリの二人で、世界の隅々まで噂になるような素晴らしい武器を作り上げてさあ! それを求めてきた王様に盾突たてついてさあ!」


 そこで彼女はふっと言葉を切り。


「……処刑されるのが夢なんだ」


 さっきまでの笑顔が突然消えて、虚無的な眼差まなざしでぼそりとつぶやくベアトリーチェ。

 ユーリもいきなり冷水をかけられたように真顔になった。


「そうすればあの夫婦みたいに伝説になれるんだ……あたいの名前と一緒に、あたいの作った武器が永遠に歴史に刻まれるんだ……」


 誰とも視線を絡ませず、熱に浮かされたようにブツブツと一人つぶやくベアトリーチェ。


 いつだって明朗快活だったベアトリーチェが隠し持っていた心の闇に、ユーリは怖気を感じて震えだした。助けを求めるようにアンナを見るが、アンナも同様におびえた目でユーリを見返すだけだった。

 二人は、合わせたようなタイミングでふたたびベアトリーチェの方に顔を向ける。その頃もまだ、ベアトリーチェの独白は続いていた。


 最後に、ベアトリーチェはようやくユーリの方を振り向き、その瞳を覗き込みながら言った。


「だから、あたいと一緒に死のう?」


 ユーリは恐怖の表情を浮かべたまま、激しい勢いで首をブンブンブンと左右に振った。

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