幕間3
「なんだか、冒険に出てる時よりも濃密な時間を過ごしてる気がしてきたよ」
「たしかに、ここまで立て続けに事件が起こるのは私も人生で初めてですね……」
もちろんここ最近のお見合いについての会話であった。
ユーリとアンナはいつものようにテーブルを挟んでお菓子とお茶を楽しみながら、しみじみとここ数日を振り返っていた。
「こういうことを言うと怒られるかもしれませんが、少し嬉しいです……なんだか、ユーリさまがより身近に感じられて」
「そ、そう?」
「冒険から戻って来たユーリさまは、いつも私に冒険中に起きた事件なんかをお話してくださったでしょう? 私、それを聞くたびに同行者の方たちをうらやましく思っていたんです。私もユーリさまと一緒に冒険に出たいと思ったことが何度もありますが、さすがにそれは叶いませんから」
アンナの述懐を聞いたユーリは少しあっけにとられながら彼女を見返した。アンナがそんな気持ちを抱いていたなんて、思ってもみなかったからだ。
そのことにまったく気づけなかった自分を少し恥じつつ、ユーリは思考を巡らせはじめた。
やがて、アンナが喜んでくれそうなことを思いつき、勢い込んでそのアイディアを披露する。
「じゃあ、いつかちょっとした冒険にでも出てみようか」
「えっ? 本当ですか?」
予想もしなかったユーリの言葉に、アンナが目を丸くする。
「僕はもう勇者の力を失ってるから、あまり危険なところには行けないけど……。安全に過ごせて珍しいものや綺麗なものが見れる場所についてはいくつか心当たりがあるから。ぜひともアンナさんと見て回りたいな」
自分が今お見合いをしている身であることも忘れて、そうアンナに持ちかけるユーリ。裏方として自分をずっと支えてくれたアンナに、少しは報いたかったのだ。
今がお見合い中で、その約束が叶うか難しいことはもちろん知っていたアンナだったが、ユーリと自分を現実に引き戻すようなことは言わず、代わりに少し大胆な思いつきを口にした。
「すごく嬉しいです! 約束ですからね。……ゆびきり、しましょうか?」
「ゆ、ゆびきり?」
今度はユーリが目を丸くする番だった。
「駄目ですか?」
「だ、駄目じゃないけど……でも、その……」
予想外の展開に、ユーリは恥ずかしさのあまりしどろもどろになる。しかし、さすがにここで駄目とは言えない。幸せそうなアンナの笑顔を前に、言えるわけがない。
「では、小指を出してくださいな」
「は、はい……」
もはやアンナのなすがまま。
小指をしっかりと絡め、アンナははっきりと、ユーリはもごもごと、それぞれゆびきりの言葉を唱えるのだった。




