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盗賊テルミトー

「面白いことをしていると聞いたのでね。はるばるこの王都にまで顔を見に来たのさ」


 闖入者ちんにゅうしゃ――盗賊テルミトーは勧められる前に椅子に座り、けろりとした顔でそう言い放つ。

 面白いこと、とはもちろんお見合いのことだろう。決してさっきの乱痴気騒ぎではあるまい。


 ユーリとテルミトーは王都から離れた街で、ある事件を通して知り合った間柄だ。彼女は盗みの腕はもちろん、ダンジョンに潜って扉や宝箱の罠を外すのも得意な、いわゆる盗賊と呼ばれる人種である。本人は時と場合によって怪盗を名乗ることもあったようだが。


 まさか、テルミトーもお見合いがしたくて来たのだろうかと、いぶかな目で見つめるユーリだったが、それに気づいたテルミトーは困ったような笑みを浮かべた。


「ああ、勘違いしないでおくれ。キミはボクの恋愛対象から外れてるし、お見合いの参加者として来たわけじゃない。ボクはいわゆるイケオジ系に心惹かれるんだ……がっかりしたかな?」

「そ、そうだったんだ……」


 彼女はちょっと芝居がかった言動をするところがあるが、容姿は美少女と言える。十分魅力的な異性なのだが、ユーリも彼女を恋愛対象とは見れないと感じていた。やはりその演技じみた言動がしっくりこないのだろう。


「それでこっそりバルコニーの方から覗いてたんだけど、まさかあんな状況に陥っているとはね。見物料なしで楽しませてもらったし、わざわざやって来た甲斐はあったかな」


 この時ユーリは、まだ先ほど助けてもらったことに対するお礼を言ってないことに気づいた。


「さっきはありがとう、指輪の効果がテルミトーの言った通りなら、僕はかなり危なかったみたいだからね」

「そのとおりだ! 女は怖いぞ、ユーリ!」


 自分も女だろうに、と小さく笑いながら心の中でつぶやくユーリ。いや、だからこそそう言えるのかな。


 テルミトーはさきほどメアリーから盗んだ指輪をユーリに差し出した。


「この指輪だが、キミに渡しておこう……それとも、お互いに一つずつ持っておくかい?」


 ユーリも少し前まで自分がはめていた同形の指輪を見つめた。単体では無害のようだが、二つ揃ったらずいぶんと危険な指輪である。


「……それがいいかもしれないね。揃ってなければ悪用もできないだろうし」

「OK。ではそうしておこう。相変わらず無欲だなキミは……。……おや、どうしたのかな? そこのメイドさん?」


 アンナはテルミトーとの面識はない。それゆえ二人の会話に口をはさむことなく、距離をとって見守っていた。……いや、その動向を見張っていたというべきかもしれない。


 テルミトーは、自分が王族の別荘には歓迎されない生業なりわいであることを思い出した。


「メイドとしては屋敷に盗賊がいるのは落ち着かないだろうが……安心してくれ。今日、この場所で盗みを働く気はないから」

「……わかりました。あなたを信用します」

「ありがとう、うれしいね。まあ、ユーリという友人がボクを保証してくれてるからだろうけどね」


 アンナとのやり取りを終えたテルミトーはユーリに向き直る。


「それでは失礼するよ。もし、また盗賊の技術が必要になったら訪ねて来てくれ」


 ユーリが返事をするのを聞くまでもなく、テルミトーは椅子から立ち上がる。そして扉ではなく、わざわざバルコニーの方へと抜け出していった。

 最後にユーリの方を振り返って手を振ると、手すりを足掛かりに大きく跳躍し、瞬く間に見えなくなった。


 ――相変わらず神出鬼没でせわしないなあ。


 ろくに会話もせずに去ってしまった友人を見送るように、ユーリもバルコニーに出ると手すりに両の手の平をのせ、広がる景色を見つめた。となりにアンナが並ぶ。


「……念のために聞いておきますが、心を盗まれたりはしてませんよね?」

「うん。それは絶対に大丈夫だよ、アンナさん」


 アンナの問いかけにユーリはきっぱりと答えた。

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