サキュバスのメルティ
お見合い、ですって?
そんなまどろっこしいことしなくても、既成事実を作っちゃえばいいんでしょ?
夢の中でアタシと結ばれて、アタシなしじゃ生きていけないようにしてあげるわ。
ふふっ、魔王はあっさり負けちゃったけど、戦いに勝つ方法は戦闘の腕だけじゃないのよ。
……こんばんは、勇者ユーリ。
ぐっすり寝てるわね。
かつて遠目に見たことがあったけど、近くで見るとやっぱり可愛い……魔王を倒した勇者だなんて、信じられないわ。
でもアタシが夢のなかでこの子を屈服させたら、魔王よりアタシのほうが優れてたってことよね。
大丈夫、アタシは人間を滅ぼすなんて物騒なことは言わないから。安心して、ユーリ。
人間とサキュバス、二人で新たな理想郷を作りましょ!!
……あら? どうしたのかしら? 夢の中に入れないわ。
な、なにこれ? 蜘蛛の網みたいなのがこの子を守ってる? まさか勇者の力なの!? 魔王との戦いで力は失ったって聞いてたのに!
やだ、べたべたして気持ち悪い……ああん、どんどん絡まっちゃう! アタシは拘束プレイに興味はないのよ。拘束するほうは好みだけど。ユーリにあんなことやこんなこと……って今は妄想している場合じゃなかったわ。
はあはあ、外すのにずいぶんと手間取っちゃった。夢の中に入るどころじゃないわね。
……って、まずいわ、いつの間にか夜が明けそうじゃない!!
ああもう、今日は退散するしかないわ!
ユーリ……可愛い顔して恐ろしい子ね……! でも次に来るときはこうはいかないんだから!
パタパタ……というコウモリが羽ばたくような音が遠のいていく。
ようやく何かしらの気配を感じたのか、ユーリが目を覚まして布団の中で大きく伸びをする。ちょうどその時、ドアが小さくノックされた。
「……ん……はい、どうぞ」
「失礼します……お目覚めはいかがでしたか? ユーリさま」
すでにメイド服を着ているアンナがドアを開き、ベッドのそばまでやってきた。ユーリは上半身を起こしながら彼女を迎える。
「おはよう、アンナさん。今日はぐっすり眠れたよ。アンナさんがこの前プレゼントしてくれたお守りのおかげかな」
「ドリームキャッチャーのことですね? 道具屋の前を通りかかった時、メアリーさんにおすすめされたんです。ユーリさまが時々悪夢を見てうなされることは私も知ってましたから、物は試しにと……。買って正解でしたね」
「効果は覿面みたいだよ。ありがとう、アンナさん」
お互いに微笑みあう二人。少ししてアンナが、今の会話と関連することを伝えるために口を開いた。
「そうそう、そのメアリーさんですが、今日の最初のお見合い相手です」
「え、メアリーさんが?」
ユーリは意外という声をあげた。メアリーが未亡人であることを知っていたからだ。
「……年の差が気になりますか?」
「い、いえ! そういうわけではないです!」
ユーリが気にしていることとは違ったが、ユーリは慌てて否定した。とはいえ、そのことについてもやっぱり少しは気になっていたのだが。
「それは良かったです。では、私は朝食の準備に取り掛かりますね」
「うん。よろしくね、アンナさん」
出ていくアンナを見送ると、ユーリはベッドから降りて着替えを始めた。




