表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

龍を飼ふ男

〈女ゐて女の証し春手套 涙次〉



【ⅰ】


 牧野旧崇(まきの・ふるたか)は、雪川組のヒットマンだつた。

「名前だけは立派なお前にも出來ることゝ云へば、ヒットマンぐらゐしかあるまい」組長ぢきぢきの任命であつた。彼は所謂チンピラの身分を脱してやる、と云ふ程度の、上昇志向は持つてゐた。

 しかし、それだけであつた。幹部の身替はりの「お勤め」(監獄に入る事)程度が、彼に出來る事だと自分でも思つてゐた。たゞそんな彼にも、自慢の種はある。

 それは、「自分は躰の中に、龍を飼つてゐる」と云ふ事。數年前、街の占ひ師に云はれた事に過ぎないが、それでも彼が彼でゐる為には、だうしてもその「思ひ込み」は必要なのだつた。



【ⅱ】


 牧野の標的(ターゲット)- それは何を隠さう、カンテラ、なのだつた。これも數年前、若頭Tを斬つた(かど)で、である。Tはすつかり【魔】に蝕まれた頭で、「俺の仇はお前が取れ」と、牧野に云ひ遺し、息絶えた。

 カンテラは勿論、一丁の拳銃など、全く恐れはしない。彼の太刀は、拳銃の彈丸をも輕く彈き返す。


 しかも牧野の事は、テオが隅から隅まで、調べ上げてゐた。さう云ふヒットマンがゐる事は、カンテラは知悉してゐた譯である。だが、いかなカンテラにも、「體内の龍」と云ふ彼の云ひ草には、引つかゝるものがあつた。もしかすると- 杞憂に過ぎねば良いが... 彼は【魔】の復活に、牧野が関はつてゐない事を禱つた。



【ⅲ】


 折角ルシフェルを斃したのである。暫くの休暇、平和が訪れてくれるやう、それは一味の皆の思ひであった。だが... テオ「だうやら牧野の動きが活発化してゐますね」彼のデータ収集に拠ると、牧野は新たに拳銃を購入したらしい。二丁あればカンテラを下せる、と云ふ譯でもあるまいが、ヤクザと呼ばれる人種が、そんな事で武張つたりするのは、常道であつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈やくざ者名乘る程でもありやせんがやくざはやくざと知つてゐてくれ 平手みき〉



【ⅳ】


 お互ひ居場所は分かつてゐるのに、顔を合はせないと云ふのは、どだい無理な話であつた。 

 そしてカンテラの前に、牧野は現れた。處はカンテラ事務所前。白晝堂々である。二丁拳銃を構へる牧野。だが、じろさんが彼の動きを封じてしまつた。後ろを取り、羽交ひ絞めにする。と、


 牧野の頭部はがくんと上を向き、その口から、何かゞどゞゞと奔流のやうに(瀧が逆流したかのやうに)立ち昇つた。「り、龍だ!」カンテラもこれには焦つた。じろさん、羽交ひ絞めの腕をこゝで緩めると、却つて危険だ、とぎゆつとしがみつく。カンテラはジャンプ一閃、龍の髭(猫の髭と同じで、これは彼ら・龍にとつて、大切な感覺器官なのである)を剣で斬り取る-


「じろさん、離れるんだ!」「お、おう!」

 だうやら牧野は、自分の周りの狀況に気付いたらしい。「俺の龍! 本当だつたんだ!」

 余計な物を、目醒めさせてしまつた!!


 命からがら結界の中に逃げおほせたカンテラとじろさん、新たな敵が現れた事、重々その身に受け止めたのである。表では拳銃が火を噴く。牧野との闘いは、續く事となつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈目刺しとは銀の屍衣(しい)着た小さき死 涙次〉



 さて、どうしようかなあ(苦笑)。新機軸は新機軸なのだが... 思つてもみない方向に向かつてゐる...  



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ