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7

 ハンナは前世の弟の死を思い出していた。その日、弟は人と会うと言って一人で出かけて行った。その出先で彼は命を落としたのだった。

 どうして、と思わずにいられなかった。交通事故で両親を亡くし、弟は体を悪くした。そこで命が助かったのに、結局交通事故で弟は亡くなった。

 これが、運命なのか。あんなに前を向いて生きていた青年が、生を謳歌できずに道半ばに命を失うことが、運命だと言うのか。


「彼のパソコンに残ったデータを処分するようにと頼まれていまして……」

 弟の友人だという男性が訪ねてきた。掃除の際などに、弟が慌ててパソコンのブラウザを閉じたりしていたのを何度か見たので、彼女は察して彼を弟の部屋へと案内した。

 男性は淡々とパソコンに電源を入れ、データの処理をし、彼女に実際にデータが消されているかどうかを確認させた。

「まあ、ここからデータの復元はしようと思えばできるんです」

「やり方がわからないし、そこまではしないわ」

「よく冗談でいざとなったら物理的に壊してくれとお互いに言ってたんですがね……でも、これって形見の品でもあるでしょう。いざとなると、お姉さんの許可なしで壊すのもどうかと思いまして」

 弟の死後、そのパソコンに触れることはなかったが、それを処分するのもためらわれた。データや個人情報の問題もあるが、かつて彼がそこにいてそれを触っていたという思い出を壊してしまいたくなかったのだ。


「……あなたが欲しいなら、もらっていただけますか。でも、ご遠慮なさるんなら、ずっとここに置いておきます。実際には使いませんけど……」

 彼女はよく考えながら、彼にそう言った。なんとなく、パソコンを撫でる。やはり、これを無くしてしまうのは、寂しいと彼女は思った。大事にしてもらえるんなら、彼にもらってもらおう。そう思った。


「……お姉さんが持っていてあげてください」

 彼にそう言われ、彼女はうなずいた。



 帰るという彼を玄関まで送る。そこで、二人は向き合った。

「あの。突然こんなことになって、本当に大変だと思うんですけど……」

 気遣うようなことを言われて、彼女は苦笑が漏れた。

「あの子が死ぬのって運命だったんですかね……あの子の両親も、あの子が足を悪くしたときの事故で亡くなってて……あのとき死ななかったから、こうやって事故に遭ったんでしょうか」

 言うべきではないことを言った。ずっと胸に秘めていた思いだった。だが、それが急に蓋を開けて出てきてしまったのだ。


「……その。運命とかじゃないと、思います。本当にたまたま運が悪かっただけで……」

「変なこと言ってごめんなさい」

 なんとか言い繕うとする彼に彼女は謝った。

「あの、難しいと思いますけど、どうかあまり気を落とさないでください。彼も、きっとあなたに笑ってて欲しいと思ってるはずなんで」

「ありがとう」

 彼の言葉に、彼女は薄く笑みを返した。



 ところで、大きな衝撃音とともに、巨大な塊が玄関に突っ込んできた。その音に振り返ると同時に体の側面に塊がぶつかってくる。それの正体がトラックか何かだと判別する暇もなく、そのまま体はつぶされて、意識は飛んだ。


 こんな終わり方なのか。やはり運命だったのか。死ねと言われて死んだようだと思った。


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