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一方の付与術師ヤンは、新たに仲間を得て、また旅を続けていた。ヤンの実力と境遇を知って仲間となった少女達の信頼を得、ヤンは見返してやるぞと息巻いていた。
「いやあああああ!」
しかし、仲間になった少女達の実力では、敵を撃破することは難しかった。
「くそう! くそう! なんでだよ! 付与しているのに!」
ヤンの付与術は的確に作用していたが、それでもなお実力が及ばなかったのだ。
ヤンの脳裏に一瞬、逃げの言葉がよぎる。目の前に捕らわれているのがかつての仲間たちなら、見捨ててもヤンの良心は痛まなかっただろう。なぜなら、彼らはヤンよりよっぽど強く、ヤンの助けがなくても乗り切れるだろうと考えられたからだ。
だが、かつての仲間よりよっぽど弱い彼女達を見捨てるという非情な選択はヤンには取れなかった。
ヤンは卑屈さはありつつも根は善良なため、逃げることができず、そのため己の身を危険に晒していた。
「はあ!」
「えっ⁉」
突然現れた刃が触手を切り裂いて、少女達を解放する。
「大丈夫か! ここは任せて君たちは逃げなさい!」
「え、あ、あ、あーーーー!」
助けに現れたのは通りすがりの騎士である。ヤンは、助かった喜びと、自分ではどうにもならなかった悔しさとで感情が昂り、勢いのまま、現れた目の前の騎士にありったけの付与術を施したのだった。
「魔力を増幅させるアイテム?」
「ああ。これから先、新たに回復術師を雇おうと思っても、やはり難しいだろう。ここは、アイテムの力を借りて魔力を増幅させて自分達の力で乗り切るべきだ」
ゲオルグが言うには、そう言う謂れのある伝説の道具が、この地のダンジョンと化した祠の奥に祀られているという。
「確かに、それがあればよっぽど道中は楽になるけど」
「それはすぐにとれるようなところにあるのか?」
アロイスが疑問を投げかける。この辺りは迷いの森と呼ばれるほど森が深く、その祠がどこにあるのかよく知られていない。
「まあ、こういうのは蛇の道は蛇というやつだ」
そして、ゲオルグが連れてきたのは、一人の女盗賊だった。
「ベルタです」
アロイスに対しあだっぽい笑みを浮かべる女盗賊を見て、ハンナはなんとなくあーあーと思う。
「ここいらの祠や遺跡なんかに詳しいそうだ。そこに仕掛けられている罠にも精通しているとか」
なるほど、遺跡荒らしを生業とする盗賊か。とハンナは思った。
「彼女はこれから俺達が行こうとしている祠に行ったことがあるのか?」
「いいええ。次なるターゲットとして調べてたんですよ。これから向かおうかって時に、例の魔の物が現れて諦めてたって感じでー」
女の話から、もしあの異形が現れなければ、そのアイテムはどこかの盗賊たちに盗掘されて紛失していたのか、とハンナ達は思った。
「一介の盗賊が世界を救う手助けができるなんて、素敵じゃないですか?」
ベルタはウフフと笑っている。大丈夫かな、とハンナは一抹の不安を覚えた。
結果、大丈夫ではなかった。
例の異形は、祠の中にまで入り込み、それを駆逐するのにハンナ達は苦戦をした。巻き込まれたベルタはそれはもうひどい目に遭った。
「古来よりいる魔物と例の異形が混ざった存在がいるとは……」
「今後もそんなのが増えていけば、一層苦戦しそうだな……」
男どもは、どうにも異形の存在の対処に気をとられるあまり、彼女のケアがおざなりである。ベルタは今回の依頼を機にアロイスと友好を結びたかったようだが、彼女の心は完全に折れてしまったようだった。




