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「ぅあああああああ!」
ハンナは叫んだ。力任せに両手足を伸ばす。口元に伸びてきた触手に気づけば歯を立てていた。それを渾身の力を込めて噛み千切る。
ひどい味だ。だが、構うか、と口に残った触手を吐き出す。その内、首周りの触手が緩んだ。ハンナは手を伸ばしてどけた。腕に絡んでいた触手を力任せに腕を振ることで拘束を緩ませる。緩んだところで、手甲を使って力任せにぶん殴る。
殴ったことで、腕の拘束がほどける。そこを両腕を使って触手を引きちぎった。脚の拘束も緩んできたので、それも引きちぎる。
「死ねえええええ!」
ハンナは叫びながら触手の上を走った。迫りくる触手を片っ端から殴っていく。
前方に小山になっている触手の塊があった。ハンナはそれを見て、カッと怒りで頭に血が上るのを感じながら、足に力を込めた。とびかかる勢いで近づく。
「おらああああ!」
塊を殴って殴って蹴りを入れる。触手をいくつか弾き飛ばすと、中からレーニが出てきた。レーニのその姿に、ハンナは先ほど自分が受けた屈辱を思い出し、より怒りが募り手に力が入る。
レーニに纏わりつく触手を片っ端からちぎっていく。触手が大分取れたところで、どろどろになったレーニを引っこ抜いて放り出した。
なんで私達がこんな目に遭わなければならない。お前らが蹂躙されろ!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
ハンナは触手の斜面を駆けあがる。アロイスもゲオルグもまだ辿り着いていない。目前にあの巨大な目が見えている。
「うわああああああ!」
踏ん張ってから、跳躍。目玉に向かって拳を打ち込んだ。
「アロイス! ゲオルグ! 早く来い!」
ハンナが拳を打ち込みながら、声を張る。無我夢中で殴り続けて、そう言えばとショートソードの存在を思い出した。取り出そうとして、腕に絡んでくる頼りなげな細い触手の存在。腕を振って払い、ショートソードで切り落とす。
ちらりと後ろを見れば、大きな触手は向かってくるアロイスやゲオルグを捉えんと伸びていた。
ショートソードを目玉に突き立てようとした。思いの外、固く、弾力があり、刃は跳ね返されてしまった。
ハンナは舌打ちをする。勢いよく跳ね返った腕が後方へと流れていく。その勢いを使いながら、ハンナは身を反転し、翻って肘撃ちをする。
ショートソードよりよっぽど効いた。
その後。アロイスの剣が無事に異形の目玉を裂いた。
「ハンナ。随分長いことあの目を見ていただろう。無事か?」
「問題ない!」
勢いよく言い切るその語気が荒い。目つきもどこかぎらついていて、表情も強張っている。ゲオルグは少しまずいと感じた。
「回復は……」
ゲオルグはジジを振り返って様子を見る。助け出された彼女は、震えながら口元を覆っていた。先ほどまで繰り返し嘔吐をしていた。まだ、他者を気遣う余裕などあるはずもない。
ゲオルグは、己の魔力を使ってハンナに回復を施した。ゲオルグもつたないながら、多少は使える。と言うより、回復のための呪文自体は全員が覚えている。ただ、それが実際に使うとなると、やはり専門家には及ばない。
それでも一応覚えておくのは、絶体絶命の危機の時の神頼みのようなおまじないのようなものであった。
ヤンが抜けてからの初戦。辛くも勝利をおさめたが、やはりと言うべきか多大な損害が出た。レーニとジジはここで旅から脱落となった。
残ったのは、肉弾戦ができる三人のみ。




