第九十五話 帰り道にて
(『ふう⋯何と心地よい清らかな音色⋯心が芯から洗われるようです⋯こんなお側で聴くことが叶うなんて夢のようなお時間でした⋯』)
「一仕事終えた後に聴くエニカ姉様の聖水の音色は疲れた身体に染み渡るようだよ!」
「そしたらコロとヒサメのご褒美は今のでいいかな?」
(『お許し下さいませエニカ様、何卒ご温情を⋯!!叶うことならばエニカ様手ずからのご褒美を頂きたいですっ!!!』)
「エニカ姉様お願いだよエニカ姉様からのご褒美が切実に欲しいんですお願いします!!!」
「冗談だよ。でも人の排泄音の感想を言われるのは気分が良くないから、せめて心の中に仕舞っておくようにしてね」
(『承知致しました!!心の中で賛美するように致します!!!』)
「分かった!!勝手に感想が口から出ないように気を付けるよ!!!」
「そこに私の排泄音を聴かないって選択肢は出てこないかぁ」
「ピギャァ⋯」
おやそこのソイル君。
コロとヒサメを「仕方のない人らだ⋯」っていった目で見て溜め息ついてるけど、 そもそもソイルのご褒美が「聖水」だったから今のやり取りをしてるんだよ?
冒険者ギルドで受けた依頼のため、水属性の魔石を探し始めてからしばらくして。
私とヒサメが川底や川辺周辺で魔石捜索を、コロが私を通じて見つけた魔石の選別を、ソイルが見張りと他属性の魔石の処理を鬼気迫る様子で取り組んでいたからか、水属性の魔石の成果は指定の袋の約半分近く溜めることが出来た。勿論、コロの厳しい選別審査は済んでいる。
あまり熱中しすぎると万が一帰りが遅くなった時に街門が閉じてしまったら野宿するしかなくなるからと、太陽が真上から西側に少し傾いた辺りで街に戻ることを決めて今は帰還前の休憩タイムだ。
その間に事前にみんなから聞いていたご褒美の一つにソイルの「聖水」があったから、ソイルへの日頃の感謝をふんだんに込めながらトイレを済ませた。
トイレ中、ふと「私もソイルも本当にこれで良いんだろうか⋯」と正気に戻りかけたけど、ソイルの魔核の安定には必要なことだしソイル自身も望んでいるからと思い直すことには成功したよ。
ちなみにソイルは満面の可愛い笑顔で喜んでくれたから結果的には良かったと思ってるよ、うん。
後はコロとヒサメへのご褒美はそれぞれある物を渡すことになっているから、買い物後に宿で渡す予定だ。
「じゃあ街に戻ろうと思うけど、みんな出発出来そう?」
「ピギャッ!」
「ボクは大丈夫だよ」
(『エニカ様、森を移動していた時のように街に到着するまで気を引き締めて参りましょう』)
「? うん、帰りだって魔物が出るかもしれないから気を抜かないようにするね、コロ」
イヤーマフフォルムのコロに話しかけている最中、ソイルとヒサメが意味ありげに目配せし合っていたことを私は気付くことは無かった。
――――――
それは街に到着するまであと半分程の道のりまで歩いていた時だ。
(『エニカ様。声を出さずに私の話をお聞き下さい。周囲を六人程に囲まれております。魔物の気配ではありません。盗賊の可能性があります』)
「っ!?」
コロの真剣な声色と内容に思わず声が出そうになったけど、何とかこらえることが出来た。
(『ソイルとヒサメも既に賊の存在に気付いており、私からも話しております。間もなく交戦する可能性がございます。心の準備をお願い致します』)
コロの言葉に軽く右耳に触れて答えようとする。
けど、その手は気を張っていても震えそうになった。
魔物は今も怖いしなるべくなら会いたくないけど、悲しいかな何度か襲われたことがあるから少しなりとも身構えられる。
けど、盗賊なんてものは元の世界でもこの世界でも出会ったことのないタイプの脅威の一つだ。
どんな目的があっても悪意があり、他者を傷付けたり、奪うことに抵抗のない犯罪者に集団で襲われるかもしれないと思うだけでも怖くて堪らなかった。
既に私の前にソイル、後ろにヒサメが立って歩きながらも警戒しているのが見て取れた。
(『こちらが警戒していることに相手も気付いたようです。近付いてきています』)
「そこの姉ちゃん達。止まりな」
低い男の声と共に周囲の茂みから野盗のような格好をした男達が出てきて囲まれた。
全員目出し帽みたく顔に布を巻いているから表情は見えにくいけど、手や背丈を見れば毛や鱗があるから獣人や蜥蜴人っぽいのが四人、小人と巨人が一人ずつといった構成だ。
「このまま抵抗しようと思うなよ?抵抗したらただじゃあ済ませねぇからな」
目の前に立つ獣人っぽい男が片手剣を私達に向けながら脅してくる。
(『エニカ様、恐ろしいかと思いますが落ち着いて下さい。現在確認できる人数は六人。
四方を囲まれているため、逃走は逆に捕まりやすくなったり攻撃されやすくなる可能性が高まります。
相手からの接触や攻撃が無ければ相手の出方を見ましょう。ソイルとヒサメには私から話しております。お返事は不要です』)
無抵抗の証として両手を挙げながらソイルとヒサメの様子をチラリと見る。
二人とも周囲を睨みつけているけど、賊を攻撃する様子は見られていないことに少しホッとした。
「顔を確認する。フードを二人とも取れ。
⋯ほう、近人体の方は地味だが顔立ちは悪くない。水精みたいな奴も中々だ」
「そいつら早く連れて売っ払いましょう!良い金入りますよ!」
「その前に味見は⋯」
「駄目だ。コイツらは大事な商品になる。抵抗しない限りは傷付けたり手出しをするな」
男達のあまりに勝手な評価と物言いに、酷い苛立ちと嫌悪感が込み上げながらも黙って様子を見る。
「それだけイイコにしてりゃあ悪いようしねぇさ。連れていけ」
「うっす!!このゴーレムもどきみてぇなのはどうします?」
「あ?そいつは見た目がゴーレムの出来損ないみてぇだから大して売れねぇだろう。好きにしろ」
「あざっす!おらっ!!」
「ピギャッ!!」
獣人っぽい盗賊の一人がソイルを蹴飛ばしたのを見た瞬間、目の前が真っ白になった。
「コイツオレの暇つぶべぁっ!!?」
「あ?」
「エニカ姉様!?」
「ピギャァ!?」
(『エニカ様ぁぁぁ!?』)
ソイルを蹴った盗賊が私の作り出した岩の柱にぶち当たって宙を舞った。
盗賊はそのままどっかへ飛んでいったけれど、そいつの行き先も末路もどうでもいい。
私の家族を値踏みして傷つける輩は誰一人だって許さない。
次回更新日は4/1の予定です。




