第九話 始まりの洞窟にて9
「鍵?コロはどこ行っちゃったの⋯?」
『エニカ様!ご安心下さい!コロはここにおりますよ!』
「えっ!?やっぱりこの鍵がコロ⋯?」
『はい!』
コロの元気そうな声が聞こえてちょっと安心したけど、鍵からコロの声が聞こえるのは正直ちょっと信じられなかった。
『今、元の姿に戻ります!』
コロの言葉と共に、鍵が虹色に光り輝き、私の手の中であっという間に丸っこいコロの姿に戻っていた。
「わっ!?形が変わった…!?」
『これが私の持つ能力の一つ、『変身』でございます!私の体積や質量を超えない限りはどんなものでも姿形を変えることが出来る能力です。
この容れ物を開けるには、私を起動させ、『変身』の能力で開くのに必要な道具に変化するまでが正しい手順となります』
「へぇ〜 すぐに開かない仕組みになってるんだ」
『万が一にも魔物などによって中の物が荒らされないための対策の一つになります』
「なるほどねぇ⋯そしたら、コロが今の鍵の形になればこの箱は開くの?」
『いいえ、こちらが本来の道具です』
ふるふると首を横に振るように身体を動かしてからコロの身体がまたも虹色に輝き、あっという間に形を変化させた。
「⋯⋯トンカチ?」
何故か片側の先が二股に尖っているタイプのトンカチにコロは変身していた。
『この容れ物は蓋の部分に見た目や手触りから分からぬよう、魔法を掛けている釘が数カ所打ち込まれておりまして、ハンマーに変身した私が釘抜きをすることで開きます』
「変わった開き方だね⋯なんか、ちょっと棺桶に似ているみたい⋯」
形も大きめな長方形で、釘を打っていると言ったらすぐに思い浮かんでしまった。ほんの少し前には両親のことで見かけていたし。
両親の時は釘打ちはしなかったけど、こんな暗闇で想像してしまったらちょっと不気味だ。
『ご明察の通りですエニカ様!
この容れ物は通称『冥闇の柩』と呼ばれる魔導具で、本来の用途は葬儀の時まで遺体の状態を完全に保存出来るよう闇魔法を使用しており、特殊な炎魔法などで燃やさない限りは外観も中身も完全保存が可能な道具となります。
マスターはその特性に目をつけて、この柩を道具入れにされたのです』
「へ、へぇ~⋯そうなんだ⋯」
マスターさん、何となく合理性を追求する人だなと思っていたけど、棺桶を道具入れ代わりにするって大胆というか、独特というか⋯
『ささっ、エニカ様。完全にお身体が冷えてしまわれる前に蓋を開けましょう!』
コロに促され、言われるがままに柩の蓋を開けてみることにした。
――――――
「おおっ⋯!本当に開いたっ⋯!」
コロから言われた場所に二股に分かれたハンマーの先端を当てれば、釘の頭部がちょっと出てきて先端が引っ掛けやすいようになったから、思ったより簡単に次々と引き抜くことが出来た。
引き抜かれた釘は形が崩れ、跡形もなく消え去っていったので、魔法っぽいと内心感動しながら、蓋を動かした。
中を見れば、様々な道具が整理されて詰め込まれていた。
服やマント、手袋、ブーツ、肩掛けバッグ、ナイフ、杖、ランタン、ロープ、麻袋、木でできた食器類⋯など、当面の旅や生活に必要そうな道具を入れてもらっているようだ。
『こちらの道具の数々が、マスターが『迷い人』として転移してくる方へと準備をしたものになります。
全て新品で用意しており、『冥闇の柩』の効果で劣化もありませんので、衛生的にはご安心頂けると思います』
「そうなんだね。そこまで気にかけてくれるなんて⋯」
コロの説明に感心した。見ず知らずの人のために本当によく考えてくれる人だったんだなぁ⋯
「コロ、蓋を開けるの手伝ってくれてありがとう。
マスターさんもコロと会わせてくれただけじゃなくてこんなに沢山、必需品を用意してもらえるなんて本当にありがとうございます。」
コロを撫でた後、マスターさんの遺骨がある方へ声を出して一礼する。
コロもだけど、マスターさんにも感謝してもしきれないよ。
『エニカ様⋯感謝の言葉を頂き、マスターも始まりの女神の御許で喜ばれていると思います。
ですが、準備をしたものが役に立つことが何よりの喜びかと思います。エニカ様のご利用したいと思うものを遠慮なくご利用なさって下さい!』
「分かった。今から中を見させてもらうね」
コロに勧められ、柩の中を確認することにした。
まず手に取ったのは服だ。いつまでも薄い喪服のままじゃ風邪を引くかもしれないからね。
「コロ。今から着替えたいからちょっと後ろを⋯」
『ご安心下さい!本来でありましたらエニカ様のお着替えを目に焼き付けるようにお見守りしたいところですが、万が一ランタンが照らすエニカ様の白いお肌を不届き者が目にすることの無きよう、必ずお守り致します!』
「見張りを本当によろしく頼むね」
やる気の大変漲っているコロ。見張りはありがたいし頼もしいけど、目に焼き付けるように着替えを見られるのは本当に勘弁したいよ。