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第八十一話 街門前にて

「そうか。エニカは従魔と宿泊が出来る鍵付きの個室がある宿屋を探しているのだな」

 今ローボルさんが口に出して言った条件の宿屋を探していることと、ギルド職員であるデュランタさんから教えてもらった宿屋が空いていなかったことを話すと、ローボルさんは顎の下に手を置いて考え始めた。

 キリッとした顔付きの狼獣人だからか、ちょっとした仕草でも絵になっている。

「宿屋は幾つかあっけど、鍵付きの個室に従魔と泊まれるとなると限られてくるよなぁ」

 一緒に頭を悩ませてくれるヒュースさん。

 パッと見は体の大きな強面の猪獣人だけど、話してみると気さくなとっつきやすい人であることが短い間でも分かってきた。

「本当はお二人のお仕事の邪魔になってしまうからと思って街の人に聞いてみようとも思ったのですが⋯ついお言葉に甘えてしまってすみません」

「それは構わない。俺から声を掛けたのだからな」

 なんてこと無いように言うローボルさん。

 クールな印象の人だけど、言葉の端々に気遣いが感じられて優しい人なんだと感じられた。

「こんなに早くから頼られて良かったなぁ、ローボルよぉ」

「煩いぞ。軽口を叩く暇があるのなら仕事に戻れ」

「まだ通行者はいねぇんだから、今は街へ来たばかりの嬢ちゃんの相談に乗ってやるのが一番の仕事だろ?」

「⋯そう思うのならば真剣に考えろ」

「へいへい」

 ローボルさんとヒュースさんのやり取りは、お互いの物言いに慣れたような気安さが感じられた。

「ところでエニカは一泊辺りの料金や期間はどのぐらいを考えているんだ?

 俺が分かる範囲では三、四軒の心当たりはあるが、エニカが話した条件の場所はどこもそれなりの料金がかかりそうなのだが⋯」

「あ、そうでしたね。私が宿屋に泊まりなれていないのでどのぐらいかかるのか分からないところはありますが、素泊まりで従魔の分も含めて一日銀貨三枚まで、期間は大体五日間ほどを考えていました」

「エニカと従魔二体で銀貨三枚⋯妥当な金額だな」

「従魔込みとなりゃ安いところは魔物一体に銅貨五枚程度で済むところもあるが、そんなとこは魔物なら全部厩舎みてぇなところにぶち込むだろうからな。

 従魔に銀貨一枚支払うってのなら、嬢ちゃんの従魔は二人とも部屋に泊まることが出来ると思うぞ」

「本当ですか?一日銀貨三枚で泊まれる宿屋は⋯」

「俺の知る範囲だが二軒はあるぞ。勿論、満室であった宿屋以外でな」

 ローボルさんとヒュースさんの言葉に内心ホッとした。

 コロからも従魔となった魔物の宿泊代について、銀貨で支払う宿屋の方が従魔への対応や設備がしっかりしていることが多いというのを聞いていたから、該当する宿屋があればそこに行ってみようと思う。

「その二つの宿屋の名前と場所を教えてもらうことは出来ますか?」

「勿論だ。一つは街の大通り沿いにある「新緑亭」、そこは広場から真っ直ぐ行った通りを歩けばすぐに分かるだろう。もう一つは大通りより向かって右側の一本、裏の道に入る「裏の小路亭」だ。そこも裏の道に入ってすぐの場所に店の名前を書いた看板があるから一目見て分かる筈だ。

 裏の小路亭は場所と店の名前で誤解されやすいが、ただ店が路地裏にあるというだけで真面目に経営している宿屋だ。

 その二か所に行ってみるといい。もしどちらも空きが無ければまた此処に来れば相談に乗ろう」

「俺も話を聞くだけなら出来っから、気軽に声を掛けてくれ」

「ローボルさん、ヒュースさん、お忙しい中、ご相談に乗ってもらって本当にありがとうございます!」

「これも仕事の内だから気にしなくて構わないぞ」

「こいつがこんな優しいことは滅多に見ねぇから、嬢ちゃんが来てくれるだけで面白ぇモンが見れて良い息抜きになるぜ」

「⋯⋯ヒュース」

「おいおいそんな目で見るなって。おっと、そろそろ通行者が来始めたみてぇだから仕事に戻るとするか。

 じゃあ俺はここで失礼させて貰うぜ」

「こんな時ばかり仕事熱心だな⋯いつもこの調子ならば俺も助かるのだがな。

 だがすまない。俺も業務に戻らねばならないんだ」

「私の方がお仕事の最中にお邪魔しているので、本来のお仕事の方に戻られて下さい。

 ご相談に乗ってもらった上に丁寧に教えてもらって本当にありがとうございました!またどうだったかお時間を見てお声掛けしますね。ヒュースさんにもお伝え下さい」

「ああ、では失礼する」

 颯爽と本来の門番の仕事に戻っていくローボルさんとヒュースさん。

 門の方を見れば、街道の方から歩いてくる人達が見え始めていた。

 お二人とも獣人だから、少し離れた場所から向かっていたとしても足音や風向きによっては匂いで分かるみたいだ。

 私の相談を聞きながら、門番として常に街の内外の様子や物音等に気を配っているのだと思うと、こうやってお時間を取らせてしまったことを申し訳なく思う。

 宿屋が見つかって身の回りが落ち着いたら、改めてお礼に来ることを決意して教えてもらった宿屋に向かうことにした。

「みんな、ローボルさん達から教えてもらった宿屋に行ってみようか。大通りの方が近いから新緑亭に行こうと思うけどいいかな?」

(『大通りの方が出入りの際の治安は裏路地より安全かと思われますので、まずは新緑亭に行ってみましょうか。

 それはそうとエニカ様。男でも女でも親身になって擦り寄る輩には本当にお気を付け下さいね』)

「エニカ姉様。何があってもボクが必ず守るから安心してね」

「ピギャッ!」

「え?みんな急にどうしたの?」

 今、門番のお二人に宿屋の場所を聞いて向かおうとしてるだけなのに、注意と決意表明と念押しされるって何だろう?


――――――


 エニカ一行が大通りに向かって少しして。通行者が再び落ち着いた頃。

「いやぁ〜堅物のお前さんにもついに春が来たかと思うと他人事ながら俺ぁ嬉しいぜ、ローボルよぉ⋯ってお前尻尾が凄ぇことになってるぞ!?」

「何だ?」

「何だはこっちの台詞だぞ何で尻尾が見えねぇぐれぇ振ってんのに、そんな涼しい顔してられんだ!?」

「勘違いをするな。俺は仕事の一環で街に来たばかりの来訪者の相談に乗ったり助言を行っているだけだ。

 決して人間種に限りなく近い、無知ともいえる近人体の猫獣人を見て大変愛くるしくて放って置けないなどとは思ってはいないからな」

「お前時々語るに落ちることがあんだよな。そんなとこが面白ぇとは思うんだけどよ」

次回更新日は3/2を予定しております。

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