第八十話 街中にて
「え、今満室なんですか?」
デュランタさんから教えてもらった宿屋に早速行ってみたけれど、店員さんからは満室であると言われてしまった。
理由を尋ねれば、この宿屋は全室鍵付きの個室に宿泊出来ることため女性冒険者のみならず冒険者の利用が多く、また冒険者ギルドから近いことで長期滞在者も多いことから中々空きが出にくいとのこと。
満室なら仕方がないと少しがっかりしながら、紹介してもらった宿屋から出た。
(『条件は良さそうな宿屋ではありましたが、空きが無かったのは残念でしたね』)
右耳に触れてコロの言葉に同意した。
宿屋に宿泊する場合、どんな宿屋に泊まった方がいいか街に入る前からコロ達と話していて、必要条件として従魔の宿泊が可能な鍵付きの個室がある宿屋を探そうという話になっていた。
従魔の宿泊可は勿論、防犯面や情報の漏洩防止には鍵付きの個室の方が良いだろうという意見が満場一致で決まったのだ。
部屋の空き状況や料金のことがあるので、すぐに決まらない可能性があることは分かっていたけど、デュランタさんから教えてもらった宿屋の空きが無かったのは本当に残念に思った。
ギルド職員さんからのオススメなら冒険者が泊まるには泊まりやすい良い宿屋であっただろうからね。
「こうなったら通りすがりの人に宿屋の場所を聞いてみないとかなぁ⋯」
もう一度デュランタさんに別の宿屋を教えてもらうという方法もあるけど、ギルド登録や買い取りのことで今日だけでも散々お世話になっているから、宿泊場所までお世話になるのはちょっと気が引けるな⋯
そう思いながら溜め息をついた時だ。
「エニカ姉様、宿屋を探すなら一つだけ当てがあるけれど⋯」
ヒサメが言いにくそうにしながらも一つ、提案をしてくれた。
――――――
『正直意外でした。貴女からその提案をなされるなんて。』
周囲の人の様子を見てコロが小声で話しかける。話しかけた先はヒサメだ。
「ボクも迷ったけど、エニカ姉様が不特定多数に声を掛けないといけない負担と労力が発生するのなら、事前に申し出があったところに行った方がマシかなと思ってね⋯」
「ピギャッ」
「でも私にとってはヒサメが思いついてくれたのは助かったよ。ありがとうね」
「エニカ姉様の力に少しでもなれたのならボクも良かったよ。
あの狼獣人と猪獣人が適当なこと言ったら、ボクが責任を持って氷漬けにするから安心してね」
「ヒサメの、気持ちはありがたいけど氷漬けまではしなくて大丈夫だからね。むしろ氷漬けにはしないようにお願いね」
ふわりと笑みを零すヒサメに、さりげなく必死に氷漬けはしないように声を掛けた。
みんなと向かうことにしたのは門番であるローボルさん達のところだ。
ローボルさん達の声掛けに早速甘えてしまうことになるのはちょっと申し訳ない気がしたけど、他に相談先も無いからと彼らのところで宿屋に関する相談をしてみることにした。
もし忙しそうにしていたらまた出直すか、街の人に聞いてみるようにしよう。
「門の方は⋯今のところ人の出入りが落ち着いてそうだね」
街門のある広場まで戻ってくれば、門の近くは人が閑散としていた。
私達がファレスタへ到着した当初、街の外側の方の門にローボルさんとヒュースさんが立っていたけど、今の時間も同じ場所に二人の立ち姿が見えた。
通行する人の出入りは落ち着いてそうだけど、今なら話しかけていいかな?
「あの⋯」
声を掛けようとした時、ローボルさんの言葉がふと思い出さた。
さっきローボルさんが声を掛けてくれた時、街の滞在が延びたり、住むことになって分からないことがあれば声を掛けてくれればいい的なことを言ってた気がするけど、今更ながら本当にお言葉に甘えて良いものだろうか?
買い物で必要なものを揃えたり、冒険者としての依頼に慣れるために延期する可能性は少し出てきたけど⋯
そう思って声掛けに迷った時だった。
「そこにいるのは先程の猫の獣人種の⋯エニカだったな。どうしたのだ?」
ローボルさんの方から私に気付いて声を掛けてくれた。
「あ、お仕事中にすみません。私達が来ていたの、気付かれていたんですね」
「ああ、仕事上、足音や声、匂いや気配には敏感なのでな。エニカがこちらに向かってきていたことには気付いていた」
「そうだったんですね⋯」
やっぱり獣人って凄いな⋯ローボルさんのいた場所から私のところまで距離があったのに気付くなんて。
ローボルさんは狼の獣人だから特に耳や鼻が良さそうで私の正体がバレないかヒヤヒヤするよ⋯
「それでどうした?今ならば人の通行が少ないので話を聞くことが出来るが⋯」
「俺に仕事を丸投げにすることでな。よっ、猫の嬢ちゃん。さっきぶりだな」
「ヒュースさん。こちらこそ先程はお世話になりました。お仕事中にお邪魔してすみません」
「⋯人聞きが悪いぞ、ヒュース」
「冗談だよ冗談。困った時はお互い様だ。
猫の嬢ちゃんも困り事か何かあって来たんだろ?今は通行者が少ねぇ時間だから話を聞けるぜ」
「お前こそ理由をつけてサボろうとしているだろ。すまないな、早速話を聞こう」
「お時間頂いてありがとうございます。実は⋯」
本来なら忙しいローボルさんとヒュースさんをこれ以上、引き止めないためにも宿屋の件を手短に話すことにした。




