第七十二話 街近くの丘陵にて
雨宿りをした洞窟から脱出して五日程経った頃。
コロが予定していた日程よりややオーバーしたけど、何とかみんな無事に森を抜けることが出来た。
森を抜けた先はなだらかな丘陵が続いている。
そこから暫く結び石の指す方角と川の流れをを目印にしながら丘陵を横断するように歩き続け、段々と遠目からでも街を囲う高い塀が確認出来るようになってきた。
元々森を抜ける前からコロより街に入る時に必要な知識は教えてもらっていたし、そのための準備や打ち合わせをコロだけでなくソイルとヒサメにも協力してもらっているけど、いざ街が近付くと緊張してきた。
まず街に入るために何を置いても絶対しなければならない事に、この世界の常識や文化を知ることと同時に『人間種でないふりをする』って何度思い返してみても中々ハードなことだよね⋯!?
この世界では人間(エターナレンでは人間種と呼ばれている)は基本全属性の魔力量の豊富さと質の高さがあることで、この世界の住人に見つかればエロ同人も真っ青な扱いを受けた上で子作りを強要される可能性があるかもしれないと言う。
それを実感することは幸運なことにまだないけれど⋯色んな人種が集まる街となれば、極力正体がバレないようにしなければどんな目に遭うかは想像するのもめっちゃ怖い⋯
今はコロのお陰で人間種ではないように見えるようにしてもらっているけど、コロ達以外の、しかも街中で色んな他人種?っていうのがいる中でさもこの世界の住人のように振る舞うことって出来るだろうか⋯
(『エニカ様、お身体の調子が優れませんか?鼓動が早くなったように感じられます』)
コロの労る言葉が直接頭の中に響いてきた。
コロに大丈夫の意味を込めて右耳を軽く触れる。
(『問題ない、ということですね。承知致しました。
何事かありましたらいつでも左側のお耳をお触れ下さい。すぐにコロがこのようにお声掛け致します』)
「ピギャ?」
「エニカ姉様、コロ君から何か話があったのかい?」
すぐ側を歩いていたソイルとヒサメも、事前にみんなで取り決めていた耳の合図に気付いて声を掛けてくれた。
「大丈夫だよソイル、ヒサメ。街が見えてきたらちょっと緊張してきちゃってね。コロが声を掛けてくれたんだ」
「そうだったんだね。すぐに気付いてあげられなくてゴメンよエニカ姉様⋯」
「ピギャ⋯」
「ううん、これが私一人なら緊張どころか何も知らないまま街へ来て捕まったりしていたかもしれないのを考えたら、みんながいてくれるからこのぐらいで済んでるんだよ」
「エニカ姉様⋯!もしエニカ姉様を捕まえようとする命知らずがいたら全員氷漬けにして砕くから安心してね!」
「ピギャッ!」
「うん、ヒサメもソイルも心配してくれるのは嬉しいけど、なるべく目立つことはしないようにね?」
二人の気持ちが嬉しいけど、極力人目があるところでの攻撃は魔物相手じゃないから、すぐに手を出さないようにしてもらいたいなぁ⋯
事前にはコロと私からも二人に話をしているから、恐らく気を付けてくれるとは思うんだけどね⋯
そう考えていたら、私の方をジッと見つめてくるヒサメと目が合った。
「? どうしたの?ヒサメ」
「ん?ああ、いつもエニカ姉様は可愛いけれど、擬態した姿のエニカ姉様も魅力的だなと思ってね!」
「ピギャピギャ!」
「そ、そうかな?」
私の擬態姿を褒めながらニコッと笑いかけるヒサメと何度も頷くソイル。
対して今の私の姿はと言うと、被っているフードを取れば耳の位置に猫みたいなケモ耳を生やしていた。
勿論、その耳はコロが変身しているもの。
耳当ての部分が猫耳の形をしたイヤーマフのような道具にコロが変身していて、私の髪から浮かないように巧妙に色合いを合わせてから装着している。
端から見れば、よく出来た猫耳型のイヤーマフを着けたアラサー女という、ちょっと痛い姿を晒しているのだ。
このぐらいの擬態⋯変装にもならなそうなレベルだけれど、コロ曰く私の頭から落ちない限りは、猫耳を持つ生まれつき近人体という人の姿に近い体型の獣人種、という設定で通るだろう、との提案があって現在に至る。
ちなみにコロはイヤーマフ姿の時は、正体がバレるリスクを減らすため、極力話さないように取り決めている。
(『ええ、ヒサメとソイルのお気持ちもよく分かります!
エニカ様に最もお似合いだと考えられる形状のお耳に変身して着用して頂いておりますからね!
ああしかし、直接エニカ様のお姿を拝見出来ないことは残念でございますが、エニカ様をお守りするためのお耳となり、愛らしいエニカ様のまあるいお耳と直接触れ合えるのは喜びの極み⋯』)
コロの言葉がダイレクトに頭に響いてくる。
これは極力人前で話さないように、だけど必要時にはコロから話の出来るように、とコロの霊属性の魔力によって、イヤーマフへ変身時には念話が出来るようにしている。
しかし、コロの魔力量の関係でコロから近距離にいる人限定で、短時間で一方的に伝えることしか出来ないのがデメリットだ。
街に近付くにつれて練習するようにしていたけど、ソイルとヒサメ以外の人がいる時には、なるべくコロとの会話は気を付けるようにしないといけないな。
そう思った時だ。
(『エニカ様、街門が近付いて参りましたので一時、コロは魔力量の節約のため、必要時や緊急時を除いての念話を控えるように致します。
念の為にソイルとヒサメにもお伝えするよう、お手数ですがよろしくお願い致します』)
コロの言葉にハッと気付き、右耳に触れて「分かった」との返事をした。
最東端の街、ファレスタに到着するまであと少し。
エターナレンに転移して初めての人里で緊張するけど、それ以上に正直本当にこれぐらいの簡単な変装(?)でバレないかが不安に思ってるよ⋯




