第六十八話 洞窟の最深部にて4
優しい金色の光を放つ砂山の中に、ポツンと置かれた焦げ茶色の木箱はとても目立っていて、どこか異様な雰囲気を放っていた。
私はあんなところに宝箱みたいな木箱があるなんて全く気付かなかったけど、ソイルは知ってたかな?
「ねぇソイル。あそこに置いてある木箱みたいなのって最初からあったっけ?」
「ピギャ?ピギャギャ」
ソイルに尋ねてみれば、木箱かある方へ一目見てすぐに首を横に振った。
ソイルも知らないみたいだ。
⋯かなり怪しいからコロとヒサメにも伝えなきゃだね。
『エニカ様?ソイルも如何しましたか?何かあられたのでしょうか?』
「エニカ姉様⋯?何かあったのかい⋯?」
私達の異変をすぐに察したのか、コロとヒサメが心配そうに呼び掛けてきた。
早く戻らないと二人ともこっちに来ちゃいそうな勢いだ。
「コロ!ヒサメ!今ソイルと戻るから!ソイル、行こうか」
「ピギャッ!」
ソイルと一緒に気持ち駆け足でコロとヒサメの元に向かった。
――――――
『お帰りなさいませエニカ様!
今先程、ソイルと何かを見ていらっしゃったご様子でしたが、何があられたのでしょうか?』
笑顔で迎えてくれたコロは、早速私達の様子を変化に気付いて、何かあったとほぼ断定して尋ねてきた。
「実は⋯」
私は砂山の中に置かれた木箱のことをコロとヒサメにも伝えた。
「⋯で、今二人にも早く伝えたくて戻ってきたんだよね」
『ヴァッッッ!!!』
伝え終わった途端、コロが聞いたことのない呻き声を上げながら、ヒサメと出会った時に見たことのあるシワシワ顔になってしまった。
「どうしたのコロ!?今凄い声出てたよ!!?」
『お見苦しいところをお見せして大変申し訳ありません、エニカ様⋯この状況下でミミックまで出現したかもしれないと思い、思わず声が出てしまいました⋯』
「ミミック?ミミックってもしかして宝箱とかの入れ物に擬態?寄生?する魔物のこと?」
『流石エニカ様⋯ご明察の通りです⋯』
コロはシワシワの顔のまま、ミミックのことを説明し始めた。
『エニカ様の仰るように、ミミックは宝箱に擬態する謎の多い魔物です。
主にダンジョン内で出現しやすい魔物で、通路の途中やダンジョンボスを倒した後にいることがあり、宝箱だと思って開けようとすると不意をついて襲ってきます。
ダンジョン以外では時折魔力溜まりとなる場所に発生することもあり、宝箱の大きさに準じて強さや厄介さが変動することも特徴の一つです。
先程エニカ様がお見かけになられた宝箱の大きさは概ねどれ程かお分かりになられますか?』
「ねえコロ君⋯もしかしてさ⋯あれ、じゃないかな⋯?」
白い顔をますます白くさせながら警戒し始めたヒサメが指差した先。
「えっ⋯!?何であそこにっ⋯!?」
「グルルルル⋯!」
先程まで私とソイルが立っていた場所に、その木箱はあった。
まるで最初からその場所に置かれていたように。
『⋯あの木箱ですね。あの大きさと移動してきた点からミミックとみなして良さそうです。
ですが、通常は箱を開けてから擬態を解いて襲いかかることが多い中、認識された瞬間から擬態を解いて移動するミミックは聞いたこともありません。
かなり特殊な個体のようです⋯強さの検討もつきませんが、ここで迎え討ち、倒す以外は逃れる術は無いでしょう⋯』
冷静な分析をするけど、どこか焦りを感じるコロの様子に緊張が走る。
『エニカ様!エニカ様に一つ、早急なお願いが御座います!』
「私⋯!?出来ることがあるなら言って!」
コロからの突然の名指しとお願いに一瞬驚いた。
けれど、非常事態だし私に出来ることがあるのなら出来る限りのことはしたいと思ってすぐに応えた。
『ヒッ⋯!』
「ひ?」
『ヒサメにエニカ様の麗しい毛髪をお与えになられて下さい!一本!!一本でよろしいのです!!
いえ!!御髪のほんの先でも構いません!!!』
「え?」
コロの突飛なお願いに思考が停止した。髪?私の髪をヒサメに??何で???
「エニカ姉様の髪を貰える⋯!?本当かい⋯!?」
「ピ、ピギャ⋯」
ヒサメの方を見れば弱って儚げに見える姿から一転、期待から目が爛々に光っていて側にいたソイルが若干引いていた。
正直私もちょっと怖いと思っちゃったのは内緒だ。
『大っっっ変申し訳御座いませんエニカ様!
しかし、ヒサメに回復してもらうにはエニカ様の御髪が必要不可欠なのです!!』
「ヒサメの回復に⋯⋯」
凄く申し訳なさそうな声で訴えるコロ。
この時、ヒサメと出会った頃に二回、ヒサメの負っていた傷が私の涙で治ったことと、ソイルが今も私のおしっ⋯排泄物で魔核を安定させていることを思い出した。
涙や排泄物であっても致命傷レベルの深い傷を完全に癒したり、死にかけて弱っていた魔核の状態を復活させた上で安定させることが出来るんだから、髪なら一時的にでもヒサメの状態を元に戻せるってことなのかも。
「分かったよコロ!すぐにヒサメにあげるから!」
答えはとっくに決まっている。コロへの返事と同時に自分の髪を少し強めに引っ張った。




