第六十六話 洞窟の最深部にて2
何事もなく洞窟の突き当たりに辿り着いてすぐ、一目見て此処が魔力溜まりになっていた原因の場所だとコロには分かったらしい。
「コロ君、どうしてこの場所が魔力溜まりになっていたって思ったんだい?」
「ピギャピギャ!」
すかさずヒサメがコロに尋ねる。
ソイルも同じような疑問を持ったようでヒサメの言葉に頷いていた。
『それはですね、この大量の砂を目の当たりにして判断致しました。
この砂は恐らく間違いでなければ炎骨石と言って、炎属性の魔力を持つ魔物が魔力を保持したまま死に至った場合、稀に遺骸や骨が魔力を含んだ化石に変化したものを指します。化石化した石は脆くなっているため、永い年月を経て砂状に変化した可能性が考えられます。
推測ですが、この砂の量を見るに炎属性を持つ大型の魔物⋯例えばドラゴンやキマイラなどがこの場所で死に至り、死骸に魔力が蓄積したままでいたところに、この洞窟の通路が塞がったことで炎属性の魔力が循環せず留まり続けていたのではないかと思われます。
その証拠とまではいかないでしょうが、長期間この空間自体が濃度の高い炎属性の魔力に晒されていたことで、元あった鉱石が灯火水晶へと変化した可能性はあると思います。
その後に何かの拍子で塞がれていた通路に穴が空いたことで溜まった魔力が外の魔力と合わさりながら放出され、ダンジョン・ミラージュが発生したのではないかと推測致します』
「なるほどね、コロ君が判断した理由が分かったよ」
「ピギャッ!」
コロの説明に二人とも納得していた。理由は私も分かったけど一つ気になることが⋯
「ところでコロ。一つ聞きたいんだけど、この場所でもう一度ダンジョン・ミラージュが起こりそうな様子とか気配みたいなのってありそう?」
『全く可能性が無い訳ではありませんが、一度ダンジョン・ミラージュが発生した折に蓄積されていた魔力が消費されたり循環しているかと思いますので、すぐに再発生する可能性は低いかと思われます。
魔力感知を掛けましたがダンジョン・ミラージュが発生する程の魔力濃度は感知されませんでしたので、今のところは酷く心配する必要は無いかと思いますよ!』
コロの言葉に少しだけホッとした。
油断は出来ないだろうけど、本当に危険な状態ならばコロ達が私にもしっかり伝えてくれるから、神経質にならなくて良さそうだ。
それにしても、この無数の灯火水晶のクラスターに照らされた砂の山⋯砂金を見たことがあるけど砂金ほどの強い色合いの金色じゃなくて、目に優しい淡い色合いの金色で本当に綺麗だなぁ⋯
元がドラゴンとかキマイラとかの怖い魔物だったかもしれないことは一旦目を瞑るけどね。
「教えてくれてありがとうね、コロ。
また話は変わるんだけど、この砂って手で触ってみても大丈夫なものかな?」
『問題ございません、エニカ様!
炎骨石はほんの僅かですが炎属性の魔力による熱を内包しておりますので、触れると温もりがあるのが特徴です。
炎骨石を使用した磁器を作ると保温効果があるため、高級磁器の素材の一つとしても使用されることがあります。
但し、大量の炎骨石に長時間触れていると低温火傷する恐れがありますので、少量を手に取られるようにして下さいませ!』
「分かったよ、コロ。あ、ほんとだ⋯あったかい⋯」
コロのアドバイスの通り、ほんの一握り分の砂を手に取れば、春の晴れた日に日光で暖められた砂のようにほんのりとした暖かさを感じることが出来た。
『もしエニカ様がよろしければ全てを持ち運ぶことは出来ませんが、この砂も貴重な素材として売却出来ると思いますので、袋に入る分だけでも持っていかれますか?』
「あ、そうか。高級磁器の素材になるってコロ言ってたもんね。大量には無理だけど、袋に入る分は拾っていこうかな」
『承知致しましたエニカ様!ソイル、ヒサメ、お二人もエニカ様のお手伝いをして頂けますか?』
「ピギャッ!ピギャピギャピィギャ!」
「ん?どうしたのソイル?⋯もしかして、この砂を食べたいの?」
「ピギャァ!」
一つ頷いた後、 私を手伝ってから砂を食べたがるようなジェスチャーを見せたソイル。
私がソイルに砂を食べたいのか尋ねれば、ソイルは一際大きく頷いて応えた。
砂は沢山あるからソイルが食べられる分、砂を食べるのは全然構わないと思ったよ。
ソイルがジェスチャーしてまで食べたがるってことは、綺麗で珍しい砂だからソイルの食欲(?)が湧いたのかな?
「ソイルが食べられる分、今からでも砂を食べてもらっていいよ。
コロもソイルとヒサメに声を掛けてくれてありがとう。でも、砂を小さめの麻袋に入れるだけだから私一人でも大丈夫だよ」
「ピギャァ!」
「承知致しましたエニカ様。
お手伝いすることがありましたら何なりとお申し付け下さい!」
ソイルは良いお返事をしてから、近くの砂山を潜るようにして砂を食べ始めた。
コロもソイルや私の意見に異論は無いみたいで、特別何か言われることは無かった。
でも何か足りないような⋯⋯
『そういえばヒサメが何も言ってきませんね』
「あ、そうだよヒサメ!こういう時、よく声を掛けてくれるのに⋯もしかして何かあったんじゃ⋯」
「返事が遅くなってゴメンよエニカ姉様⋯お手伝い、ボクはするよ⋯」
近くでヒサメの声が聞こえた。だけどその声は最深部に辿り着く前の元気は無いように感じられた。
周りを見渡すけどヒサメの姿が見つからない。
『ヒサメ、貴女今どこにいるのですか?』
「すぐ近くにいるよ⋯」
ヒサメの声が聞こえた方に向かえば、ヒサメは出入り口近くの砂山の陰にいた。
だけど、目にしたのはきつそうに座り込むヒサメの姿だった。




