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第七話 始まりの洞窟にて7

『私と対等でいたい、ですか⋯それが貴方様のお気持ちであられるのですね…少々、私に考えるお時間を頂けますか?』

「勿論だよ。ゆっくり考えていいからね」

 少し呆然としたようなコロの返答は、今まで聞いた中で一番他人行儀なような気がした。

 ⋯⋯コロに距離を置かれちゃったかな。覚悟してたつもりだったけど、ちょっときついな。

 でも、一緒に過ごす時間が長くなってから切り出すよりかは遥かにマシのようには思う。それとも時間の経過で自然にコロと打ち解けることが出来たのだろうか。

 なんとなくだけど、コロはこっちが意思表示しなければ、ずっと私の言動行動の全肯定と最優先を続けるし、主様呼びを止めない気がする。

 しかも状況が長引けば長引くほど、のらりくらりと躱すのが上手くもなりそうだ。

 今後長い付き合いになると思うから、今のうちからでもお互いのことを知ったり、少しだけでも意思や気持ちを話せる関係になりたいと思ってたけれど⋯私の押し付けになっちゃうかなぁ。

 コロの返事を待っている間、とりとめなく考え事をしていると、段々と寒気が肌にまとわりつくようになっていた。

 そういえばこっちの世界に来てから、ずっと喪服だから薄着で冷えてきちゃったのかも。

 今着ている喪服は黒のワンピースにセットのブラウスを羽織って、黒タイツに黒のパンプスを合わせたスタンダードな組み合わせだ。

 元の世界でもニュースで肌寒いって聞いていたからブラウスを羽織っていたけど、それでもずっと外にいるとなれば防寒としたら心許ない。

 寒さを意識しちゃったら、ちょっと鳥肌が立ってきちゃったし、鼻もむず痒くなって…

「クシュッ!」

『エニカ様!?お体が冷えられたのでしょう!今防寒道具をお取りしま…あっ』

 軽いくしゃみが出てしまった私に、コロがすぐに飛び跳ねて来ようとしたけど急に動きが止まってしまった。今、私の名前を呼んでくれた?

『あ、思わずお名前を…』

 コロも自分で私の名前を呼んだことに気付いたみたいで、顔を俯かせていた。

 コロの様子が気になって、少し近くに寄ってみて気付いた。

 ランタンの炎の灯り以上に、コロのほっぺたが赤く煌めいていたことに。

 ……もしかして照れてる?

『あああっ……せめて私の気持ちをお伝えしてからお呼びするつもりがっ⋯!勝手にお名前をお呼びして申し訳ありません⋯』

 きまり悪そうに謝るコロ。謝ることではないけれど、コロの中では気にしちゃってるんだろうな。

「ううん。名前を呼んでくれて私は嬉しかったよ。

⋯⋯コロの気持ち、教えてくれる?あ、私の名前で呼んでくれたんだから、これから名前呼びは決定だからね」

 コロから話してくれるのを待とうと決めていたけど、私の名前を呼んでくれたことがコロが出した答えだと思う。

 きっとどう話して伝えるか、色々考えている最中に思わず答えの一部がこぼれ出てしまったようだ。

 私がコロの気持ちを聞きたい(てい)で尋ねれば、コロはおずおずと私を見上げた。

『⋯エニカ様から私と対等でいたい、名前で呼んで欲しいと言われた時、名前をお付けして頂いた時と同じく、これ以上ない喜びを感じました。そしてそのエニカ様の思いにお応えしたいとも⋯

 ですが、私にはもう一つの思いがエニカ様に対して芽吹いておりました。

 マスターの命令だから、ではなく心の底からエニカ様にお仕えし、身を尽くしたい、とも』

 コロの言葉に私は思わず目を丸くした。

「え?それって⋯」

『エニカ様はきっと私がマスターの(めい)で、エニカ様の下僕として振る舞っていると思われたのではないですか?』

「え?違うの⋯?」

『初めはエニカ様の仰る通り、創造主たるマスターの命は絶対であります。考えたくもないもしもの話ですがエニカ様以外の転移者が私を起動すれば、マスターの命としてその方を主として(あお)いだいたでしょう。

 その方が私を使い捨ての下僕や道具としてしか見ていなかったとしても、私にとっての唯一無二の至高の主であると何も疑いも考えもせずに』

 コロの言葉はどこまでも穏やかなまま、話し続ける。

『マスターの命に従い、主様となる方に私の全てを持って仕え、尽くし、捧げることが一番の幸福なんだと信じておりました。

 その信じていた幸福を、エニカ様は全て塗り替えてしまわれました』

 え?どういうこと?

「私、コロに何しちゃったんだっけ⋯」

「エニカ様は私と出会った時から突然動き出した私を恐れることなく、安堵され礼まで述べられて撫でて下さいました。

 創造主であるマスターの死を悼んで、私に寄り添おうとして下さいました。

 私の名に関心を持たれて、名を懸命に考えて下さいました。

 その上、私を下僕としてではなく相棒として対等な相手でありたいと仰って下さいました。お名前でお呼びすることさえお許しになって。


 ⋯叶うならば、対等な相棒としてだけでなく、心から終生お仕えしたいと思える御方としても、エニカ様のおそばにありたい。

 そして、対等に接して頂ける幸福も身を尽くせる幸福もどちらも欲するようになってしまいました」

 それが私の気持ちであり、本音です。このような我が儘をエニカ様は聞き入れて下さいますか?

 そう締めくくったコロの表情は晴れ晴れとした笑顔だった。

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