第六十四話 ダンジョン・ミラージュ発生後の洞窟にて
『少々落ち着いたところで、ダンジョン・ミラージュのことを皆さんにお話ししておきたいと思います』
あの後、手分けして魔力溜まりとなりそうな場所がないか洞窟内を隈無く探してから、私のお夕飯を準備して食べながらコロの話を聞くことになった。
ちなみに今日のお夕飯は、黒パン二切れと最近採れたヤマモモに似た実を軽く洗ってから食べている。
本当はもう少ししっかり食べた方がいいとコロ達から言わているし私もそうしたいところだけど、体感だと時間帯が深夜に近そうだからあんまりガッツリ入る感じじゃなくて、軽めに済ますことにしたよ。
少しずつ味に慣れてきた黒パンと、甘酸っぱくサッパリとした実を味わいながら、コロの話に耳を澄ませた。
『ダンジョン・ミラージュとは様々な原因で魔力が一つの場所に蓄積し続け、その魔力が一定量以上に達した時、一時的にダンジョンという別空間として具現化した現象のことを指します。
今回皆さん体感をされたかと思いますが、あくまで蓄積された魔力から生み出された空間であるため不安定で、同様に生み出された魔物やダンジョンボスとなる魔物を倒すことで溜まった魔力を散らして循環させれば、いずれは空間ごと壊れて霧散するようになっております。
そのため、基本は魔力の塊とも言えるダンジョンボスとなる魔物を倒したり、魔力が自然に霧散するまでの一定期間耐えれば、ダンジョン・ミラージュは崩壊されると言われております。
しかし、この現象の恐ろしい部分は蓄積された魔力の量や質、発生してからの時間経過具合などによって生み出されたダンジョンの難易度が変化することと、発生している間はダンジョンとして常に魔力を取り込み内部を拡張、複雑化しようとする機能が存在することです。
不安定な空間であるが故にダンジョンとして存在し続けるために貪欲に魔力を取り込もうとします。
それにより発生時に死亡した場合、すぐに魔力の一部として取り込まれるため、ダンジョンが消滅する時は同じく消滅してしまうのです。
しかし生きてさえいれば、魔力や物質として安定しているのは私たちの方なので、消滅に巻き込まれることは無く、元の場所へ戻ることは出来るのです』
「そんな怖い現象がこの世界にあるんだね⋯」
『様々な要因が噛み合わないと起こらない現象ですが、エターナレンではどの属性の魔力でも循環せずに溜まればどのような場所でも発生し得る可能性はあります。
今回は発生してすぐのダンジョン・ミラージュであったためか、ダンジョンボスまでの順路も真っ直ぐで魔物も比較的倒しやすい種類であったことは幸いでした。
これが質の高い魔力を蓄積していたり、発生してから魔力が循環しないまましばらく時間が経ってしまったり、⋯⋯既に魔物や冒険者などが取り込まれていた場合、上位の魔物が多く発生していたり、順路が複雑化していたり、ダンジョンボスが格段に強くなっていたりと危険度が跳ね上がっているところでした』
コロの話を聞く度に、今回巻き込まれたダンジョン・ミラージュはめちゃくちゃマシな方だったんだと震え上がった。
「私たち、本当に運が良かったんだ⋯」
『はい。それは間違いありません。
余談ですがダンジョン・ミラージュを放置したり、元から難易度の高い状態で発生している場合ですと、そこからいずれダンジョン・クリアとなり、正式なダンジョンとして国から指定を受けます』
「ダンジョン・クリア?」
『ダンジョン・クリアとは、不安定な空間であったダンジョン・ミラージュが様々な要因で内部の魔力が安定してしまい、恒常的なダンジョンとして発現し続けることです。
簡潔に申しますと、一時的に発生し消滅するダンジョン・ミラージュから、いつでも出入りが出来る滅多なことが無い限り消滅しないダンジョンへと変貌したものを指します!』
「コロの話を聞いたら、ダンジョン・ミラージュって放っておいたら碌なものにならないことはよく分かった気がするよ」
『ダンジョンが齎す恩恵も無い訳ではありませんが、現時点ではエニカ様の安心安全を脅かす存在になり得ますので、正直碌なものではありませんよ!
本来であれば、ダンジョン・ミラージュが発生した場合は最寄りの村や街への報告や、冒険者として登録している者である場合は報告の義務だけでなく可能な限りの鎮圧が望まれておりますが⋯今回はエニカ様の情報漏洩を出来る限り避けるため、報告はしない方向で参りたいと思います。
その代わり、ダンジョン・ミラージュの発生原因となった魔力溜まりを放置すれば範囲が拡大する恐れもありますので、魔力溜まりとなった場所を確認でき次第、必要に応じて当分魔力が蓄積しないように可能な限りの対処をしておきたいと思いますが、エニカ様はいかが思われますか?』
「そうだね⋯どんな場所が魔力溜まりになりやすいかを知っといた方がいいかなと思うし、森を抜けるのに支障が出る可能性を減らしたいとも思うから、出来るだけの対処が出来そうだったらしていきたいかな」
みんながいたから殆ど何事もなく済んだけど、やっぱり危険で怖い現象だとは思ったから、報告しないっていうのは正直良心が痛んだ。
せめて原因の対処が少しでも出来そうならしていけないかなと思ったよ。
『承知致しましたエニカ様!ソイルとヒサメも聞こえましたか?』
「ピギャッ!」
「ちゃんと聞こえてるよ」
ソイルとヒサメの返事もすぐに聞こえた。
実はソイルとヒサメは距離はそう離れていないけど別行動をしてもらっていた。
ソイルは洞窟の出入り口前で再び石で防壁を造ってもらってから外の見張りをしてもらい。
ヒサメは洞窟の奥で見つけた、土壁に閉ざされかけていた最奥に続く道と、崩れた部分から見える謎の光の監視をしてもらっていた。
コロは恐らくそこが魔力溜まりとなった場所じゃないかって推測していて、変化がない限りは朝になってから奥の道を確認しに行くことにはなったけれど⋯ひとまずは朝まで何事もないことを祈るばかりだよ⋯




