第六十二話 ダンジョン・ミラージュ発生中4
土埃が晴れ、ソイルがうつ伏せになって倒れている姿が見えた途端、私はショックで立てなくなりそうになった。
「あ⋯いや⋯ソイルが⋯」
「エニカ姉様!?」
崩れそうになった私をヒサメが支えてくれた。
「ヒサメ⋯!私は大丈夫だからソイルを⋯!」
そう言いかけた時、先にオークが動き出した。
倒れたまま動かないソイルを見て、自分の踏みつけ攻撃が当たったとでも思って勝ち誇っているのか、ニヤリと歪んだ気持ちの悪い笑みを浮かべる。
そしてやっと出番が来ましたと言わんばかりに、ずっと担ぎ持っていた大きな石鎚を振り上げようとしていた。
あの石鎚でソイルを潰すつもりなのっ⋯!?
「コロ!ヒサメ!お願いソイルを助け⋯!!」
『エニカ様、エニカ様のお心とお顔を曇らせる憂いはたった今、晴らされましたよ。ご覧下さい!』
それは本当に一瞬のことだった。
私がコロとヒサメの方へ視線を向けていたほんの僅かな間に、勝敗はついていた。
得意げな表情のまま、大きな石鎚を振り上げた瞬間のまま、オークを象った悪趣味な石像が出来上がっていたのだ。
オークの石像の足元にはちょこんと頭を上げたソイルがいる。
今ソイルがいる位置は、私たちがいる場所に対して背を向けているから表情は見えない。
だけど、ソイルが石化の魔眼を発動させたことと、オークに勝ったことは紛れもない事実であった。
「ソ、ソイル⋯?無事⋯なの⋯?」
声が震えながらもソイルに呼びかける。
「ピギャ?ピギャァ!!」
辿々しい声で呼びかけてしまったにも関わらず、ソイルはオークと戦う前と変わらない、満点の笑顔とお返事を再び見せてくれた。
「ソイル〜〜〜!!!無事で良かった〜〜〜!!!」
ソイルの笑顔とお返事を見たら、居ても立ってもいられなくなって思わず駆け寄って、持ち上げて抱っこしてしまった。
「ピギャッ!?ピギャァ⋯」
ソイルも初めはビックリして私を見上げていたけど、私の腕の中ですぐに甘えたようにお顔をぴっとりとくっつけてくれた。
「エニカ姉様の応援だけじゃなく、熱い抱擁まで受けるなんて⋯こんなことならやっぱり、ボクがあの醜悪な肉豚を倒しに行けば良かったっ⋯!!
⋯今エニカ姉様が触れている部分だけでも、ソイル君を削らせてもらえないかなぁ⋯」
『今回土魔法の制限があることや慣れない体形での戦闘となっても、身体の使い方を工夫し、わざと弱ったフリをして石化させるタイミングを見計らいながら戦い、ボス戦で勝利を収めたことは素直に称賛したいと思います⋯
しかし!戦闘前にエニカ様の熱烈な声援を賜るのみならず、戦闘後もエニカ様の溢れんばかりのご寵愛を受けた上で堪能するとは、正直申し上げると嫉妬と羨望の他諸々の感情の方が上回って仕方がないのですよ⋯』
背後からでもビシバシ感じるヒサメとコロの不穏な気配と視線と台詞に、仲間の筈なのにオーク以上の脅威を覚えてしまった。
二人の様子が怖いのか、ソイルもピッタリくっついて離れる気配が無いのが正直困ったよ⋯
――――――
『では気を取り直して、ダンジョンボスであるオークが倒された今、近い内にダンジョン・ミラージュが解かれると思います!
それまでに戦利品を早いうちに回収してしまいましょう!』
冷静さを取り戻したコロの声掛けでボス戦後のアイテムを拾い集めることになった。
つい数分前まで仲間内で一触即発の雰囲気を醸し出していたけど、石化したオークがいつの間にか居なくなり、代わりにアイテムが置かれていたことに気付いてみんなに声を掛けたら、何とか全員(特にコロとヒサメは)落ち着きを取り戻してくれたようだ。
「ソイル君、君の身体の表面で良いから削らせてくれないかい?」
「ピギャッ!?」
前言撤回。内心の落ち着きが取り戻せていない子がいた。
「ヒサメ。ソイルに意地悪しちゃ駄目だよ」
「あ⋯!ゴメンよ、エニカ姉様、ソイル君⋯ソイル君の身体にエニカ姉様の慈愛と温もりと皮脂が付いていると思うと居ても立ってもいられなくなっちゃってさ⋯」
「ピ、ピギャァ⋯!?」
『こらヒサメ!私だって欲しいところですが、今はアイテムの回収の方が先です!時間との戦いなので手伝って下さい!』
「分かったよ、コロ君」
何も解決はしていないし、むしろ悪化した気もするけど今すぐに仲間内での傷害事件が起きることは無さそうだ。
小刻みに震えるソイルを落ち着かせるように撫でながら、コロとヒサメの様子に暫く目を光らせることを内心誓いつつ、とりあえずはアイテム回収に専念することにした。
『ボスオークが落としたアイテムの数は三つのようです。一つ一つ確認してみましょうか』
コロたちと確認したのは、一つ目はオークが使っていた巨大な石斧、二つ目はオークの皮、三つ目は⋯
「この丸い肉の塊みたいなのって⋯」
そう言いかけた時、チュンッ!!と高い音が側で聞こえた。
次の瞬間には、謎の肉の塊は影も形も無くなって少量の煙だけ残していた。
『最後の一つは生ゴミのようでした!エニカ様のお目とお手を汚すだけの、ですね!とりあえず光魔法と熱魔法を組み合わせて消し去っております!』
「ピギャピギャ!」
「あんな汚物、無くても構わないと思うよ!」
今のってみんなして笑顔で隠蔽する程のものだったのかな⋯?でもそう思うことにした方が良さそうだね、うん。
そう内心で自己完結した時だった。
ピキリッ
何処からともなく、卵の殻にヒビが入るような音が聞こえてきた。




