第六話 始まりの洞窟にて6
置物くんの名前かぁ……どんな名前がいいのか、考えながら置物くんの方をちらっと見てみた。
めちゃくちゃキラキラと期待した目で見てくる……責任重大だ。
流石に今まで心の中で呼んでいた置物と思っていたからの置物くん呼びもまんま直球すぎるし、もう少し考えてやりたい。だけど私に名付けのセンスなんてない。
ほんとどうするか〜〜〜〜〜!!本人にもう一度聞こうかとも思ったけど、また下僕や奴隷呼びを熱望しそうな気もする。
今もランタンの仄かな灯りでも分かるぐらい目を輝かせて待っててくれてる……待たせてごめんね……
ランタンの仄かな灯りでも分かるぐらい輝いているブラックオパールの瞳を見て、ふと思いついた。
見た目から連想ゲームのように考えてみたら、ぴったりな名前が見つかるかも。
なんなら、この子の一番の特徴は光に照らしたら全身がオパールのようにキラキラしているから、オパールってつけてもいいかもしれない。
よし、第一候補はオパールにしよう。ちょっと考えてみて他に思いつかなかったらオパールに決定だ。
オパールは宝石の中でも一番好きな石だ。私の誕生石でもあるから思い入れもある。
一時期オパールを持つことに憧れていた時期があったけど、欲しがっていた当時は小学生で宝石を持つことどころか買うこともできなかったから、自分で作れないか調べたこともあったっけ。
その時に人工でオパールを作ることは出来るけど、家で気軽に作れるようなものじゃないことを知ったんだったなぁ。
人工のオパール⋯⋯人工繋がりで名前を考えるのもどうだろう。人工オパールだって天然のオパールとはまた違う魅力があるから名付けの参考になるかも。
確かハイブリッドオパールとか何とか結晶とか色々あったような⋯⋯結晶の方は何て言うんだっけ?確か最初「こ」がついていたような⋯こ⋯コ⋯⋯
「⋯⋯コロ」
『コロ?』
そうだ!コロイド結晶だ!あー思い出してスッキリした。でもこの二つしかすぐには思い出せないや。まあ、あくまで参考だからいいか。
『コロ⋯⋯それが私の名前になるのですね⋯⋯!?』
「ん?」
『主様がお悩みになるお姿を目にして、お手を煩わせてしまったのではないかと懸念しておりましたが、主様自ら命名して頂けるとは⋯⋯この上ない幸福でございます!!』
結晶の名前を思い出している最中、呟きが漏れてしまったようだ。
気付いた時には置物くんの名前がコロに決定してしまっていた。
「あれ、あの、まだ決めてる最中だったんたけど、コロで本当に良いの?もしコロが嫌だったら嫌って言っていいからね?」
「とんでもございません!私がマスターよりかつて呼ばれていた56番にも通じるようなお名前を考えて頂けて私は幸せ者です!」
うわっ!?本当だ!!偶然でも56っていう語呂合わせしちゃってた!?
もう少しちゃんと決めてあげられたら良かったけど⋯⋯結果的に本人が喜んでいるからいいのかな?
「ねぇコロ」
『はい!何でしょうか主様!!』
早速コロの名前を呼べば、凄いニコニコして元気なお返事をしてくれた。
本当に嬉しそうみたいだから結果的に良いとしよう。
この様子ならこれからお願いしたいことを聞き入れてもらえそうな気がする。
「お願いしたいことがあるんだけどね」
『何なりと仰って下さい!』
「主様呼びを止めてもらうことって出来ないかな?」
『な、何故ですかぁぁぁ主様ぁぁぁ!!』
良い雰囲気の流れのまま、穏便に主様呼びを止めてもらえないか伝えてみたけどダメだった。
むしろマスターさんのご遺体と対面した時よりショック受けてない?
『主様⋯何故⋯どうして⋯⋯私に名前までおつけして下さったのに⋯私では貴女様の下僕として相応しくないのでしょうか⋯?正直に仰って下さい⋯私は貴女様にとってどこが相応しくなかったかを⋯⋯全て⋯全て直します!だから⋯だから私をお見捨てにならないで下さい⋯⋯』
ズリズリと音を立てながらゆっくりと近寄ってくるコロ。
ブラックオパールのように煌めいていた瞳は光を失い、深淵を覗いているかのように真っ黒になってしまった。言葉掛けを間違えると病んでしまうようだ。
コロの病みオーラにちょっと圧倒されそうになるけど、伝えたいことはきちんと伝えるために、コロと向き合った。
「コロ。私ね、真中縁花って名前なんだよ。
私は君に名前で呼んでもらいたいんだ。コロにとってはマスターさんの命令かもしれないけど、相棒になるって言ってくれたからには、私は主じゃなくて相棒として対等でいたいと思ってるよ。コロは嫌?」
『え?』
コロは私の言葉にきょとんとしていた。病みオーラはひとまず消えて目に光が戻ってる。
私が主様呼びを止めてほしいという話をしたのは理由が二つ。
一つは主という柄でもないから、せめて名前呼びとかでもう少し気安く話してもらいたいって思っていたから。
もう一つは、薄々思っていたけど、コロは私を主と認識していることで、大抵の私の言動行動を全肯定し優先している。
本当だったら起動した時点でマスターさんのところへ駆け寄りたかっただろう時でさえ、私がマスターさんのことを聞くまでコロは私から離れることはなかったぐらいに。
私がコロと対等でありたいと言えば、もう少しコロ自身の意思を私に話してくれないだろうかと思ったから。
「出会った時間は短くても、コロは私が自分で答えを出すまでずっと待っててくれたよね?今度は私が待つ番になるから、コロがどうしたいかを教えてね」
コロが何と言うか、向き合うのは正直怖い。
だけど、コロの気持ちを聞くタイミングは、本格的にここから旅立つ準備をする前の今が一番だと直感的に思った。