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第五話 始まりの洞窟にて5

 置物くんが話し終わった後、洞窟の中は痛いほどの静寂に包まれた。

 知らない場所でパニックになっていたことと、すぐに置物くんに会えたことであまり気にしていなかったけど、自分の呼吸の音以外の物音がほとんど何も聞こえないのは、本当に不安でとても怖い。

 光だって今はランタンがついているけど、多分置物くんの話から「迷い人」に反応して灯りがつくタイプの道具かもしれない。そうすればあっという間にここは真っ暗闇だ。

 もしかしたら、私が来るまで置物くんもマスターさんも、この音も光も届かない暗く寂しい洞窟の中にずっといたんじゃないだろうか。

 きっと誰にも知られずに。マスターさんが白い骨だけになってしまうまで。

 「迷い人」と呼ばれる転移者のために生涯研究に身を捧げ、最期に置物くんを残してくれた人が、今も洞窟の奥、冷たく湿った地面の上にはいるのはあんまりだと思った。

 この人がいなければ、私はこの洞窟の奥で一人、絶望の中途方に暮れていたか、何も知らないまま外に出て、他の「迷い人」たちのように悲惨な目にあっていたか、想像に難くない。

 せめて、地面ではない場所で眠らせてあげられないだろうか……

 そんなことを思いながら、置物くんのところへ向かおうと黒い箱から立ち上がった時だ。  

『主様申し訳ありません。少々感傷に浸ってしまったようです。マスターからは何事があっても私を起動させた御方に尽くすよう命じられていましたのに』

 私の動いた気配に気付いて、置物くんの方から跳ね寄って来てくれた。

「それは気にしないで。むしろ話してくれて本当にありがとう。だけどマスターさんのこと……本当に残念だったね」

『私をお造りになった当時よりお年を召されていましたので、この洞窟へ置かれた日が今生(こんじょう)での別れになると覚悟はしていましたが……』

 会ってからずっと滑らかに話をしていた置物くんが初めて言葉を詰まらせた。

 置物くんにとっては親にも等しい存在の痛ましい姿を見たのだ。

 例え人工で造られた存在だとしても親を亡くして計り知れない思いを抱えるのは、私にも身に覚えがありすぎることだった。

『主様?』

 気付けばマスターさんの遺骨の前で跪き、目を閉じて手を合わせていた。

 今すぐにマスターさんのためにしてやれることは限られている。

 だけれどせめて、せめてご冥福をお祈りする気持ちと、置物くんに会わせてくれたことへの感謝を早くに伝えてあげたいと心から思った。

『主様……マスターのために祈って下さり、本当にありがとうございます』

 私の行為が何か伝わったのか、地面についた膝元にそっと置物くんがすり寄ってきた感触がする。

 少しでも置物くんの悲しみや寂しさに寄り添ってやれたらいいな。小さく丸い頭を撫でながら、目尻に溜まった涙を拭った。


――――――


 マスターさんに黙祷を捧げた後、気になっていたことを思いきって置物くんに尋ねることにした。

「ねぇ、ずっと気になっていたことがあるんだけど聞いてもいい?」 

『はい!何なりとお答えしますよ!』

 私の質問に置物くんの勢いある返事がきた。ちょっと元気を取り戻せたかな?

「今更だけど君の名前を知らないなと思ったんだ。教えてもらってもいいかな?」

 今までの置物くんの話の経緯から、私への主様呼びはマスターさんから造られた時にプログラミング(と呼ぶのがあってるかは判断に迷う)されているようなものであることはなんとなく分かった。

 でも自分のことを「人工スライム」とは言ってたけど、名前ははっきり言ってなかったような気がするんだよね。

『私の名前ですか?マスターからは特に名前を頂いてはおりません』

「え!?それってどうして…?」

「マスターからは新しい主様に仕える際、その主様にとって呼びやすい名前で私を呼ぶ方がいいだろうということで、今までは暫定的に56番と呼ばれておりました」

 今の話で聖人のような研究家のマスターさん像のイメージがちょっと変わった。

 他の転移者の身を案じて配慮してくれてはいるみたいだけど、結構合理的な部分がある人みたいだ。

 でも流石に番号呼びもどうかなぁ……

『私のことは主様のお好きなようにお呼び下さい!下僕でも奴隷でも構いません!興奮します!』

「なるべくいい名前を考えるから、ちょっと待っててほしいな」

『光栄です!!』

 早速番号呼びと下僕奴隷といった言葉は候補から排除しよう。

 でもまさか名前がないとは思わなかったから、いきなり名前を考えるとなったらすぐに思い浮かばないな……

『本当に何でもいいのですよ。主様から頂けるお名前でしたら私の一番の宝になりますから!』

 ハードルが上がっただとっ……!?

 いきなりこんな重要局面に立たせられるとは思わなかったよ!

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