第四十七話 泉のほとりにて3
ウンディーネちゃんが四ドブスに向かって、激しい吹雪のような冷風を浴びせた時だった。
「あっ⋯!?」
強い風の勢いで靡いたウンディーネちゃんのアイスブルーの美しい長髪が、毛先から針先のような結晶となって一気に砕け散ってしまった。
ウンディーネちゃんの髪は襟足の長さまで短くなってしまったけれと、綺麗な髪が細かい氷の結晶となって、キラキラとダイアモンドダストのように煌めきながら砕け散る様は、見惚れるほど美しかった。
「うわっ!!?」
『エニカ様っ!!?ソイル、エニカ様と私たちの周囲に土壁をっ!!!』
「ピギャッ!!!」
その感動も一瞬だった。次の瞬間には、ウンディーネちゃんが起こした冷気の余波が一気に押し寄せてきたのだ。
コロの咄嗟の判断とソイルが造り出した土壁のお陰で、何とか難を逃れることが出来たけれど⋯
「外⋯収まったかな⋯」
『風の音は鳴り止みましたね。様子を見てみましょうか』
「ピギャッ!」
ソイルが土壁を崩した先に見えた光景は、大変衝撃的なものだった。
土壁の向こうは一面、氷の世界となっていた。
地面は真っ白に染まり、所々に氷や雪の塊が転がっている。
草木は凍りつき、風が吹いた形に小さな氷柱が垂れ下がっている。
氷の世界は、木々の間から見えていた泉にまで届いていた。そこまで広くない泉ではあったけど、よくよく目を凝らして見てみれば、泉一面凍りつき固まっている。
少し離れた泉にまで届く威力の吹雪を、もろに浴びた四ドブスはというと、それはそれはドブスの名に相応しい有様となっていた。
激しい怒りのような形相で顔を歪めるもの、恐れを成して酷く怯えた表情を浮かべるもの、逃げようとした姿のまま凍りついたもの、ポカンとした顔で何事が起こったか分からないまま物理的に固まったもの、と四者四様それぞれ個性豊かな凍り方をしていた。
⋯⋯このドブスたち、見るに耐えないというか、いつまでも見るもんじゃないね。
清々したけど、長く見ても気分が良くなるものじゃないや。そう思い、すぐに見るのを止めた。
私が今、しっかり見ないといけないのはコイツらじゃない。
「あ⋯ね、姉様⋯ボク⋯また⋯!」
ただでさえ真っ白なお肌をさらに青くさせて、しどろもどろになってしまっている、ウンディーネちゃんだ。
髪が短くなったことでお人形みたいな綺麗な顔がよく見えるけど、その表情はどこか痛々しい。
少し声を掛けただけでも、また逃げ出してしまいそうな雰囲気の彼女に掛ける言葉は決まっていた。
「ウンディーネちゃん!助けてくれて本当にありがとう!!コイツらを倒してくれてスカッとしたよ!!」
「え⋯?」
私の言葉に、ウンディーネちゃんはキョトンとした表情を浮かべていた。
『一瞬でもエニカ様を危険に晒したので礼を述べたくはありませんが⋯でも貴女のお陰で助かりました。ありがとうございます。
⋯⋯正直、私たちだけでは水辺にいるウンディーネたち四体全てを、こんなにも早く倒すことは難しかったと思いますので。』
ちょっとそっぽを向きながらも一応ウンディーネちゃんにお礼を言ったコロ。
⋯やっぱりウンディーネちゃんがいなかったら、あの四ドブスを倒すことは厳しかったんだね。
「ピギャッ!ピギャァッ!」
私やコロの言葉に同意するように何度も頷くソイル。
「コロとソイルもありがとうね。すぐに指示したり、土の壁を作ってくれて。」
『いいえ、私の力だけでは⋯ああっ!エニカ様のお手の柔らかく温かいこと⋯!!』
「ピ、ピギャア!」
「いいなぁ⋯」
コロとソイルをヨシヨシと撫でてあげてたら、ウンディーネちゃんの呟く声が聞こえてきた。
「羨ましいよ⋯ボクも⋯ボクも君たちみたいに姉様に褒めてもらいたい!撫でてもらいたい!大事にしてもらいたい!
⋯名前をつけて、呼んでもらいたいよ⋯!!」
ウンディーネちゃんの心の内が、堰を切ったように溢れ出してきた。
⋯ウンディーネちゃんが従魔契約をしたがった理由がきっと、今の叫びに詰まっているんだと痛いほど伝わってきた。
コロとソイルに目配せをする。二人とも静かに頷いてくれた。
「ウンディーネちゃん。こっちにおいで?貴女と色々話をしたいんだ」
「⋯⋯うんっ!今行くよ!!」
ウンディーネちゃんは青と銀の瞳を潤ませながら答えてくれた。
――――――
私はウンディーネちゃんに伝えた。
コロとソイルにも相談した上で、ウンディーネちゃんと従魔契約をして仲間に迎え入れたい意思があること、
だけど従魔契約には、契約者か相手のどちらかが死ぬまで契約が続き、解除には今ある魔力が今後回復することなく、大幅に減ったり質が落ちるデメリットがあること、
従魔契約をしても、場合によってはウンディーネちゃんの意に添えないことがあったり、願いが叶えられないことがあるかもしれないこと、
⋯今言ったことが一つでも納得出来ない場合には、従魔契約は出来ないこと。
これらの内容を、ウンディーネちゃんの反応に気を付けながら一つ一つ伝えて言った。
ウンディーネちゃんは最後まで黙って話を聞いていた。
「今の話を聞いて、ウンディーネちゃんはどう思っているか、教えてくれる?」
少し緊張しながらウンディーネちゃんに尋ねる。
ウンディーネちゃんはゆっくりと形の整った唇を開いた。




