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第四十五話 泉のほとりにて

 私たちはウンディーネちゃんを追いかけるために、白く小さな霜を辿ることにした。

『エニカ様!そのように走られるとお身体に負担がかかるでしょう!もう少しゆっくり行かれてもウンディーネは見つかると思います!』

「えっ!?でも霜だから溶けちゃうんじゃない!?」

『自然に出来た霜の場合ならすぐに溶けてしまったと思います!しかし、これは魔力で出来た霜ですので、込められた魔力の強さや出来栄えによっては長く持つこともあります

 本来ならば魔力で作られていても、この大きさならばすぐに溶けてもおかしくはないでしょうが、おそらく感情的になって魔力にムラがあるため霜として残っているのでしょう!霜に魔力が残っているうちにウンディーネの後を追いましょう!!』

「分かった!ソイルもいつもよりちょっと揺れちゃうけど大丈夫!?」

「ピギャッ!」

 杖の先に結んだ布に入っているソイルに尋ねながら、急ぎすぎて山道の中転ばないよう、早歩きを意識して向かっていた。

 そのため、右肩に乗っていたコロの呟きをよく聞くことが出来なかった。




『この小さな霜でさえすぐに溶けて消えない程の魔力⋯涙の跡でしょうかね?エニカ様への未練ありまくりではありませんか。

 エニカ様への深い愛は見受けられる、見所のある魔物ではありますが、あまりに情念の強いようならば霜とともに消えてもらわねばなりませんね』


――――――


「やっと開けたところに出たっ⋯!ここは⋯?」

 ウンディーネちゃんが残していった霜を辿って着いた先は、青く透明な水が綺麗な泉だった。

 ここってもしかして⋯

『あのウンディーネ、(たばか)りましたね⋯!? 

 わざと痕跡を残して姉たちとやらがいる泉にまで誘導したのであれば、姉たち諸共(もろとも)泉のあぶくに変えてやりますよ⋯!!』

「ピギャアッ!!」

「ちょ、ちょっとコロさん?ソイルさん?決めつけるには早くないかな⋯?」

 話に聞いていた、ウンディーネちゃんの生まれた場所であり、長年言葉や魔法による暴力を奮ってきたウンディーネちゃんの姉妹(とは本当は言いたくないけど)が住む泉なんじゃ⋯と思った瞬間、コロが推測と想像でブチ切れて、ソイルも殺る気になってしまった。

 疑問に思ったりショックを受けたりする前に、別の人が激しく怒ったりすると、逆に冷静になることあるよね。今の私がまさにそんな感じだ。

 ここに本当にウンディーネちゃんがいるのか、ただ通り過ぎただけなんじゃないか、と辺りを見渡していた時だった。


 ダァンッ!!!


 近くで物が激しく打ち付けられた音が聞こえた。

「今の音⋯」

『エニカ様お静かに。近くにあのウンディーネだけでなく、ウンディーネの姉たちがいるかもしれません。

 なるべく物音を立てずに音のした方向へ向かいましょう。ソイル。貴方も地面に降りて戦闘準備を。』

「ピギャ」

 コロの指示にソイルは小さな返事をすると、器用に布から降りて静かに着地した。

 コロは短距離だと魔法を使う移動以外では、地面に潜って移動する方法も静かに早く進めるようで、私たちに見えるようあえてモグラが掘った跡を残すように進んでもらった。

 なるべく物音を立てず、周囲を警戒しながら泉の周りを歩いてみる。

 すると、段々と言い争うような声が聞こえてきた。

「姉さん達!ボクはここを通っただけだ!

 早く離れるから攻撃を止めてくれ!!」

「アラ ソウナノ?アナタ ムダニメダツカラ メズラシイエモノト ミマチガエチャッタワ」

「⋯ ⋯ ⋯!」

「⋯ ⋯!⋯ ⋯!」

「⋯ ⋯!」

 せっかく綺麗に戻っていた姿が再びボロボロになっているウンディーネちゃんと、全身水で出来た(見た目だけ)美女が四人見えてきた。

 恐らくでなくても、あの四人がウンディーネちゃんの姉であるウンディーネなのだろう。 

 一番前に立っているウンディーネは片言でも言葉を話せるみたいだけど、他の三人は聞き慣れない音のような言葉で喋っているようだった。

 それでもあの四ブス(ウンディーネちゃんと姉妹なんて言いたくない。今命名した)はウンディーネちゃんのことを嘲笑うような、嫌な笑い方をしていた。

「コロ⋯!」

『今はいけません。こちらの戦力と比較すれば、相手の方が魔力の供給源となる泉に近い分、地の利もあり有利です。

 ⋯お辛いとは思いますが、ここは堪えて下さい』

「⋯っ!」

「ピギャ⋯」

 コロの言葉に歯がゆいけれど、ソイルの心配するような声を聞きながら今は黙って見守ることしか出来なかった。


――――――


「ぐっ⋯!?」

「フフッ シロク ニゴリキッタハダデモ イロト モヨウガ ツイタラ ナカナカ イイジャナイ!

 ツチヨゴレト ヒビガ イチバンニアウワネ!!」

 四人それぞれ、魔法で出した水をムチのようにしならせて、ウンディーネちゃんを散々甚振(いたぶ)った後、クスクス笑いながら四ブスは去っていった。

『⋯あのウンディーネ達は去ったようですね』

「ウンディーネちゃん⋯!」

『エニカ様!』

「ピギャッ!」


「そ⋯こに⋯いる⋯の⋯ねえ⋯さま⋯たち⋯?」


 四ブスが完全に去っていったのを確認して駆け寄れば、ウンディーネちゃんは気付いてくれた。

 けれど、私たちを呼ぶウンディーネちゃんの声は、息も絶え絶えな、とても小さな声だった。

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