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第四十四話 森の中にて9

『⋯そのお言葉をお待ちしておりました。エニカ様』

「その言葉を待ってた⋯?」

 コロの返答は思いもよらないものだったけど、その声色は思ったよりも穏やかだった。

『エニカ様があのウンディーネとの従魔契約を選択した時に、エニカ様の麗しいお口から全員でもう一度、よく話をしたいとの旨を一緒にご返答頂いたことに安心致しました。

 私がウンディーネとの従魔契約をすぐに認めなかったのは、彼女の魔物としての特性や性格的な部分を見ての判断もありましたが、一番は不躾ながらエニカ様とのやり取りを見させて頂いた際に、彼女の願いに対してエニカ様が話の流れのまま、すぐにお答えになられてから私たちの意見を尋ねに来られた姿を見て危機感を覚えたからです。

 エニカ様とウンディーネの前であえて特性などの話をしましたが、すぐに逆上して攻撃の意志が見られたように、従魔契約のみならず言葉を理解できる魔物との会話では、こちらと魔物との間で思いや認識に差があることがあります。

 私もウンディーネに対して挑発的な発言をしていたことや、エニカ様へのご説明や注意喚起が後手に回ったことは私の不徳と致すところだと思っております。

 しかし、特に従魔契約を望む魔物に対しては、返事を即決されずに先に私たちへご相談頂くか、相手にどのような意思があって従魔契約を望んでいるかを尋ねられてからのお返事をお願いしたいと思っております。

 ⋯⋯そうして頂ければ、従魔契約の時に私たちはエニカ様が相手に対していかなる感情や想いをお持ちでいらっしゃっても、後押しもご助言もご説得も行うことが出来るかと思います』

 コロの言葉に、確かに自分はウンディーネちゃんのお願いにコロとソイルに尋ねる前に、「え?いいの?」と従魔契約してもらっても良いとも取れる返答をしていたのを思い出した。

 ⋯だからコロはウンディーネちゃんとの従魔契約に渋っていたんだっていうのも改めて分かった。

 それに、ウンディーネちゃんを挑発してたってのも自覚してたんだね。

「コロの話を聞いて、ウンディーネちゃんがどんな気持ちかをちゃんと知る前に返事しちゃってたことに気付いたよ。これからは気を付けるね」

『いいえ。説教じみた言い方をしてしまいましたが、エニカ様自ら私たちやウンディーネと話す必要があるとお考えになられたことに、コロは嬉しく思いました。

 しかしウンディーネを迎えに行く前に二つ程、お約束して頂きたいことがあります』

 コロの表情と雰囲気が一瞬にして、穏やかなものから真剣なものに変わったのを肌で感じた。

『一つは、ウンディーネの意思を確認する上で、我々への攻撃性が高く、エニカ様を独占したいという欲求が強いと見なされた場合、我々はエニカ様のご意思よりもお命と安全を優先致します。

 ⋯⋯ウンディーネとの戦闘となりましたら、加減など互いに出来ぬものだとお覚悟願います』

 そばで静かに私たちの話を聞いていたソイルも、コロの言葉に黙って頷いた。

 ⋯⋯つまりは、二人ともあのウンディーネちゃんを倒すことも可能性として考えているってことだよね。

 ウンディーネちゃんを仲間に迎えたいという気持ちはあるとはっきり言える。

 でもそのためには、仲間に出来ない可能性だってあることを覚悟しないとなんだ、と思い知らされた。

「⋯⋯分かった」

『よろしいですね?ではあともう一つ。

 ウンディーネとの戦闘になった場合、今度こそエニカ様は絶っっっっっ対に私やソイルの前に出て来たり、ましてやウンディーネを庇うために無茶をしてはいけませんからね!!!

 それがお約束出来ないようでしたら、ウンディーネを迎えに行くどころか、従魔契約も認められませんよ!!!』

 目を光らせるどころか、ギラつからせて警告してくるコロ。め、めちゃくちゃ怒ってる⋯

 さっきの攻撃や魔眼の準備をしていたコロとソイル、強い冷気を放っていたウンディーネちゃんの間に咄嗟に割って入っちゃったこと、やっぱり怒ってたんだ⋯

「ピ、ピギャッ!」

 ソイルも控えめだけど、少し涙目になりながら足元のブーツを引っ張っていた。

 ⋯みんなを止めたいと思って飛び出しちゃったけど、怒ったり泣かせちゃう程、心配させたね⋯⋯

「ごめんね、無茶をして二人を心配させちゃって⋯

 でも私も決めたよ。ウンディーネちゃんと話すっていう私の我が儘に二人を巻き込んでいるんだから、もし仲間に出来なかったとしても、そのために無茶をしないことを約束する。

 ⋯⋯二人とも、信じてくれる?」

 しゃがみながら、二人の顔を見て伝える。

 コロはギラついていた目から一転、いつもの可愛い、だけどちょっと心配そうな表情で、ソイルもコロと同じような表情で私を見返していた。

 だけどそれも一瞬で、次の瞬間にはコロもソイルも私のことを真っ直ぐに見つめ返してくれた。

『エニカ様のお言葉⋯コロはしかと受け止めました!』

「ピギャァ!」

「コロ⋯ソイル⋯ありがとう!だけどコロ。

 ウンディーネちゃんを迎えに行くって言ってたけど、どこに行ったか分からないのにどうやって⋯?」

『それはこちらをご覧下さい!エニカ様!』

 コロの視線の先を追いかける。そこには⋯⋯

「あれは⋯霜?」

 地面に点々と降りている小さな白い霜。

 それがウンディーネちゃんの残した道標で間違いなさそうだった。 

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