第三十八話 森の中にて3
⋯あれ、私、今何があったんだっけ⋯?
確か、木の下で倒れている女の子がいて、その子の顔を拭いてあげようとしたら目を覚まして、その子が起きたから離れようとしたらコロとソイルの声が聞こえた瞬間、空を飛んで⋯って、何があって私空を飛んだのっ!!?
そんで今どうなった訳なの、と思って周りを見渡せば、目の前には土壁(?)があって、私はというと宙に浮いたままだった。いや、ほんと何で???
どうやら私の身体は誰かの両腕に肩と膝をしっかりと抱え上げられていて、いわゆる“お姫様抱っこ”をしてもらっている状態のようだ。え?誰が私にしてんの???
「ギギャ⋯」
頭の中でハテナを飛ばしまくっていた時、私の頭上で聞き慣れたような、聞き慣れないような声が聞こえた。
ギギギ⋯と音がしそうな程、ゆっくりと上を見上げてみれば、
「ギギャァ」
「⋯⋯⋯っ!!?」
顔がソイルとそっくりな土で出来た大男に抱き抱えられていて、驚きと恐怖で声にならない悲鳴を上げてしまった。
「ギィ⋯」
ソイルにそっくりな大男は私の様子を悟ってしまったようで、黒目に瞳孔がブラウンの大きな一つ目から涙が零れ落ちそうになっていた。
この泣き方はソイルで間違いない!
「ご、ごめんねソイル。身体の大きさが急に変わっててびっくりしちゃったんだ。
私を守ろうとしてくれたのに、すぐに気付いてあげられなくて本当にごめんね」
泣きそうになっているソイルによしよしと頭を撫でてあげると、ソイルは目をウルウルさせたまま私を優しく降ろしてくれた。
その直後、いきなり人型が崩れた。
「ソイルっ⋯!?」
「ピギャッ!」
崩れた土の山からモゾモゾと出てきたソイルは元の大きさに戻っていた。
「もしかして、私を抱きとめるために魔法で一時的に大きくなってたの?」
「ピギャァ!」
ソイルがコクコクと何度も頷く。
「そうだったんだね。気付いたらソイルの腕の中にいたから、何が起こったかよく分からなかったんだ⋯」
『何が起こったのかエニカ様がご存じないのは致し方ありませんよ⋯
緊急事態とはいえ合図も何もなく、突然高速で足元から地面が上がってきて宙に飛ばされれば、余程の手練か場馴れした者でもなければ対応どころか認識も出来る筈がありません⋯
ソイル。そしてエニカ様。今回のことで後でお二人にお話がありますのでご承知願いますね』
すっごい低い声で目を赤く光らせながら私たちを見てくるコロは、どんな魔物より怖くてソイルと二人で震えてしまった。
「わ、分かったよコロ。でもまさか本当に宙に飛ばされてたなんて思わなかったな⋯教えてくれてありがとうね⋯あ、それよりさっきの女の子は⋯!?」
もしかしてもう倒しちゃったのかな⋯敵意や害意があるようには見えなかったけど⋯
『そのことですが、こちらをご覧頂いた方が早いかもしれません。
エニカ様には少々刺激が強いかと思われますが、彼女の決意と覚悟は本物だと私には見受けられました』
「決意と覚悟?それってどういう⋯⋯っ!!?」
思わず息を呑んだ。私を空へ飛ばした原因である土壁が影になってすぐに見えてなかったけど、彼女を一目見てコロの言っていたことがすぐに理解出来てしまったからだ。
「姉様!これが貴女へのボクの気持ちなんだ!⋯信じてくれるかな?」
彼女が見せてくれたのは以前ソイルも見せてくれたことのある魔核。魔物が敵意が無いことを示す時の最大限の証。
女の子の魔核は彼女の瞳と同じ、澄んだ青と銀が混じり合って綺麗だけど、その綺麗さを打ち消してしまうぐらい衝撃的な光景が目に入った。
「ボクは姉さんたちのように、魔核がすぐに見せられるところに無いけれど、貴女が望むなら何時でも見せるし、貴女の手であるなら壊されたって構わないよ!」
赤みの差した綺麗な笑顔の真下では、ノースリーブのワンピースが無残に引き裂かれ、女の子の上半身があらわになっていた。
それだけでもショッキングなのに、女の子は自分の手で胸元に罅を入れて拡げながら魔核を見せていたのだ。
「わぁ⋯⋯」
『お気を確かにエニカ様。まだ何の魔物かを彼女から尋ねることが出来ていませんが、大抵のあのような感じの女性型の魔物は粘着質なタイプになりがちなのですよ』
「ピ、ピギャァ⋯」
出会ったばかりの美少女から受ける思いが重いタイプの猛烈アピール(婉曲表現)に、何でこんな強烈なアピールを受けているのか全く心当たりが無いよ⋯という疑問と、これやっぱり私が受け止めないといけないものなんだろうか⋯という疑問に現実逃避しかけていたら、珍しくげんなりした様子で答えるコロの声と、恐ろしいものを見る目で女の子を見据えながら私の前に出てくれたソイルの声で我に返った。
「姉様?貴女のお返事、ボクはずっと、ずぅっと待ってるよ!」
⋯とりあえず、女の子に私たちを害そうとする気がないのはよく分かったから、身体と服を元に戻すようにお願いするところから会話を試みてみよう⋯




