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第四話 始まりの洞窟にて4

「取り乱しちゃってごめんね……」

『いいえ主様。この世界に来られて間もないというのに、貴方様のご不安やご心配に寄り添ってお話できずに申し訳ありませんでした』

「ううん…でもまだ頭と心の整理が追いつかなくてね…」

『今は主様のお心とお身体を休ませることが先決です。私は主様のおそばにおりますのでご入用でしたらいつでもお声掛け下さい』

 所変わって洞窟の最奥。出入り口での置物くんの言うことを聞いて、重たい身体をなんとか動かして最初の地点に戻ってくることにした。

 置物くんも気を使ってか、今回は箱に座る私の膝に乗らず、私の横に飛び乗っていた。

 また点々としたランプの灯りだけが頼りの暗闇に戻ってきたけど、さっきの信じられないほど大きな鳥の魔物を見てしまった以上、この洞窟以外に私の安全圏がないことも身に沁みた。

 心と身体の安寧を得るためにもいよいよ腹を括らないとか……

「ねぇ、早速聞きたいことがあるんだけどいい…」

『勿論です!何なりと!』

「反応早いね。……その人は君の知り合いの人?」

 迷ったけど指を指すのもどうかと思って、視線でご遺体さんのことを尋ねた。

 ここでしばらく過ごすかもしれないことを考えたら、このご遺体さんの正体はきちんと知っておいた方がいいと思ったのだ。

 置物くんも私の視線の先に誰がいるか、すぐに察してくれたようだ。箱から飛び降りでご遺体さんのところまで跳ねていった。

『この方は…私の創造主となる方です』

 ご遺体さんの方へ向いている置物くんの表情は暗闇も手伝って見えない。

 だけど、その声色はこの短い時間で聞いた中で一番静かだった。置物くんはそのまま静かにぽつりぽつりと語り始めた。

『創造主…マスターは主様と同じく転移者でした』

「!?」

 ご遺体さん改め、マスターさんのことも詳しく知りたいと気持ちがはやりそうになる。

 だけど今、置物くんにとって話すのも辛いことを話させている最中(さなか)かもしれない。そのまま黙って話の続きを聞くことにした。 

『この世界では転移してくる者は主に二通りいます。一つは「召喚の儀」で正式に喚ばれる者。もう一つは様々な条件が重なり偶然この世界に転移してしまった者。マスターは前者でした』

 召喚の儀?どんなのかは分からないけど、私の場合はどちらに当たるのだろう?

『前者は国王を始めとし、国全土で最大限配慮をされるのでいつでも人目のある息苦しさがあること以外は比較的快適に過ごせたようです。

 しかし……後者にとってはそうではありませんでした。正式な儀で喚ばれていない者は突発的に転移してしまうことがほとんどで、国が保護する前に悲惨な目に合うことも少なくなかったそうです』

 召喚の儀でもだけど、転移の仕方で待遇や境遇が180度変わる地球人の立ち位置についても知っといた方が良さそうだな。

『主様はその残酷な事実を知った時から後者…「迷い人」の置かれる状況下に心を痛められ、「迷い人」の転移の条件は何か、「迷い人」が転移したことを察知が出来る方法はないかなど、魔導師としての才を開かせた後も終生研究に身を捧げておりました』

 終生研究……見ず知らずの転移者のたまにそこまで出来るなんて、マスターさんはきっと心の優しい人であったと思う。

 けれど、きっと心優しいだけでなく強い信念を持って他の転移者を助けようとしてきたのが、置物くんの話から伝わってきた。

 だからこそ、そんな立派な人がこんなところでひっそり埋葬もされずに眠りについたのだと思うと胸が痛くなった。

『マスターは気の遠くなるような研究の中で、いくつか転移が起こりやすい場所が存在することや「迷い人」が転移してくる周期があることを突き止められました。 

 その内の一つがこの洞窟です。この洞窟で転移が起こるとなれば約百年に一回、転移が起こる可能性があるとの推測を立てられるまでにマスターの研究は進んでいました』

 凄い……そこまで突き止めたなんて……私が同じ立場だとしても見ず知らずの誰かのためになんて出来ないと思うし、そもそも研究が出来るほどの頭もない。

『マスターは推測が実証できるかどうか、少数の推測した地点に試験的に私のような案内役となる魔導生物やエターナレンでの生活に必要となる魔導具の設置をして、もし転移が起こった場合にマスターや国が保護するまでの間、「迷い人」 のサポートも出来るように取り組まれるところでした。

 私もこの洞窟にはそういった目的で設置されていました。転移者はエターナレンに来ると総じて特別な魔力を宿すため、その魔力に反応して起動するようになっているのです。

 ですが、最後に見たマスターのお姿は私に停止魔法をかける直前でした。ここにマスターがいらっしゃるということは、志半ばにして始まりの女神の御許(みもと)へ旅立たれたのですね……』

 そう言って置物くんはマスターさんに静かに寄り添った。

 今度は私が置物くんに寄り添えないかと思ったけど、少しだけ時間を置いてから二人のそばに行くことにした。

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