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幕間 ある男の話

 男にとって、その日はいつもと変わらない日常を過ごす筈だった。

 男は日課である、静かに朽ちていく人間種の骨を愛でるために、深い森の奥にある小さな洞窟へと足を運んでいた。

 しかし、洞窟へついた途端、男の日常は脆くも崩れ去った。

  人間種が洞窟全体に掛けていた魔法が解かれてい

る⋯!?

 男は愕然とした。

 静謐な闇の中、ゆっくりと朽ちていく様を一時(ひととき)眺めて心を癒していた人骨が、人骨と共に置かれていた遺品の数々が、()()()()()()()()()()()()()が、洞窟にあった全てが、大量の土砂に覆われ無惨にも埋まってしまったからだ。

  数少ない楽しみを何者かに奪われただと⋯⋯!!

 男は激しく憤慨した。

 得意の魔力探知で偶然見つけた人間種の骨に心を奪われてから、なるべく人骨の遺志を汲んでやろうと掛けられていた魔法も解かず、現状も極力変えないようにと時々様子を見に来るだけに留めたのが失敗だった。

  こうなることなら、全てを持ち去って大事に標本にしてやればよかった!

 男は場を荒らした不届き者を探すために魔力探知を発動させた。

 そして男は気付いた。

  別の人間種の魔力⋯⋯!?

 男の魔力探知能力の高さがなければ中々気付けないレベルだが、僅かに骨となった人間種の魔力とは別の人間種の魔力を感知した。

 男はさらに魔力を発動させて、この地で何があったのかを過去視した。

 この魔法は男の魔属性の魔力の高さと、男が持つ貴重な魔導具の補助がなければ成し得ない高位魔法であったが、男は事も無げに魔法を行使する。

 過去視はあくまで一定範囲の場所の過去を「視る」だけの魔法である。

 音や声は一切聞こえず、過去に遡ろうとすればする程、魔力の消費が激しい魔法だ。

 それでも男は視た。

  人間種の女⋯!?迷い人か⋯!?

 黒い衣を纏った一人の人間種が突然現れた瞬間を。

 

 その女が男をもってしても遺品の一つだと思われていた置物を魔導生物へと戻し、

 突如動き出した魔導生物を(いと)うことなく心を通わせ、その話の一つ一つを聞き入ってやる姿を見せ、

 エターナレンに迷い込んだ現実を目の当たりにして衝撃を受け絶望した様子でありながら、なお前を向こうとし、

 魔導生物と真っ直ぐに向き合い、美しい魔力をもって従魔契約を交わし、

 さらにどこぞから連れ帰ってきたマッドゴーレムの心さえ掴み、受け入れ、()の者とも従魔契約を結び、

 永い時を男が大切に見守ってきた人間種の遺骨に心を痛め、死を悼む魔導生物に寄り添い、彼の人を思いながら涙を流し、最後まで祈りを込めて納棺と埋葬を行い、

 洞窟を崩落させた後も敬意を失うことなく一礼をして旅立ったところまで、


 男はサイレント映画のように映し出された女の一日を、最後まで飽きることも目を逸らすこともなく見続けた。

 過去視が終わった後も男は立ち尽くしていた。

 それはまるで楽しみにしていた映画が期待以上の見応えがあり、見終わった後の余韻に浸る(さま)にも見えた。

  ああ、あの人間種の遺骨は同族に弔われた訳か⋯⋯それならば仕方あるまい。

  それはそれで良しとしよう。







  今は新たな楽しみを見つけられた喜びを人間種の遺骨に感謝せねばな⋯⋯!!


 男は今まで愛でていた人骨を失った憤り以上の悦びに、不気味に口を歪めて笑った。

 男の脳裏に浮かぶのは、人間種の女の姿。

 神使として世界全土や「十二番配」に囚われながら奉られても、迷い人として国の保護という名目の下、見ず知らずの愚者共に汚されることもなく、従魔たちの力を借りながらも自ら決断して歩もうとしている姿のなんと健気で美しく、愛おしいことか⋯!

  こうしてはおられない!

  早くあの人間種を見つけに行かなければ!

  遺骨はあの人間種だから丁重に弔われた。

  だが、あの人間種が誰からも汚されず傷つけられないとは限らない!

  あの従魔たちでは心許無いであろう!

  次こそは、誰にも手を出させはしない!


  やっと見つけたのだ。己だけの唯一と成り得る存在を。

 

 男は人間種を追うために足早に立ち去ろうとした。

 が、一度だけ洞窟の方へと振り返った。


「今まで拠り所となり感謝する。永く弔ってやらずにすまなかった。

 安らかに眠るよう、これはせめてもの手向けだ」


 男が言葉を発した瞬間、土砂が溢れ出していた洞窟は、元から洞窟が無かったかのように完全に塞がっていた。

 男は少しだけ目を閉じてから、今度こそ立ち去っていった。

 男の足取りは人骨に会いに来た時より軽いものであった。

明日は通常通り、更新致します。

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