第三十三話 始まりの洞窟にて、出発前
『おはようございますエニカ様!
旅立ちに相応しい、いいお日和となりましたよ!』
私を起こす小さな子どものような声がすぐ近くで聞こえる。
まだ眠っていた気持ちを抑え、なんとか目を開けるとそこには⋯
『ああっ!お寝顔も愛らしいですが、目覚めのお顔も大変麗しく⋯』
「⋯おはよ、って近っ!?」
ほぼゼロ距離で私の顔を覗き込んでいたコロによって意識が覚醒した。
そうだった。私はエターナレンっていう異世界へ転移してきてたんだったっけ。
夢じゃなくて残念なような、そうでなくてホッとするような不思議な気持ちがする。
『お目覚めになられたようで何よりですエニカ様。
昨晩はゆっくりお休みになられましたか?』
「うん。寝袋もあったし、横になったらあっという間に寝ちゃったよ。
コロもソイルと一緒に見張りをしてくれてありがとうね。疲れなかった?」
『お役に立てて嬉しいです!またご心配頂きありがとうございます!お陰様で疲れも御座いません!
エニカ様の愛らしいお寝顔を拝みながらお守りする任でしたので、疲れどころか毎分毎秒気力体力魔力が回復を通り越して増大する心地でおりました!!』
「朝から絶好調だねコロは。ソイルは出入り口のところ?」
『はい!交代で見張りをしておりまして明け方からがソイルの番となっています!』
「教えてくれてありがとね。
⋯早速トイレに行こうと思ってね」
『承知致しました!エニカ様のお手洗い中の警護と処理は我らにお任せ下さい!』
「⋯⋯うん、よろしくね」
この会話には訳がある。昨晩寝る前にした三人でのやり取りのことだ。
詳細は私の名誉のため伏せとく部分もあるけど⋯要点を話せば、
・ソイル、魔核が不安定な状態。地属性の魔力は従魔契約で質も上がって安定しているけど、魔眼が発動する元となる魔属性の魔力は不安定なまま。しばらく私の体液に含まれる高い質の魔力必要。
・ソイルとの初対面時、ソイルに話しかけたくてコロと交渉した約束が有効(やっぱりうやむやにはしてくれなかったねコロは⋯)。約束を破った方がもっと厄介になる。
・排泄後の処理について、何がとは言わないが直接自分にでいいよー、なソイルと、間接的でも構わないのであわよくば私が代わりにその役目を⋯、なコロと、直接だけは本当に勘弁してもらいたい!!、な私の三すくみ。
・結果、直接は免れたけど終わり次第、早めにソイルが処理。コロの瞳が悔し堕ちしていた。
上の四つが夜分遅くに至極真剣に話し合われたことだ。
これから先、私のためにもソイルのためにも必要なことは分かってんだけどね⋯
他の方法って本当にないのかなぁ⋯
内心ため息をつきながらソイルのところへ向かうことにした。
――――――
「ソイル、おはよう。見張りお疲れさま」
『ピギャァ!』
土壁の上に立つソイルに声を掛ける。うん、朝から良い笑顔でお返事してくれるねソイルは。
周囲が崖や森の木々に囲まれているからまだちょっと薄暗いけど、ソイルの背後から見える空は明るくなり始めていて、雲一つ見当たらなかった。今のところは天気も良さそうだ。
とりあえず何事もなく夜明けを迎えられて一安心したけど、本当に何もなかったのかな?
コロは何も言ってなかったけど⋯
「ソイル。夜は何も無かった?」
「ピギャピギャ!」
「ん?登れってこと?」
「ピギャッ!」
「ちょっと待ってね⋯よいしょっと⋯
えっ?わぁ⋯!?」
ソイルに促されて作ってもらった段差から上がれば驚くような光景が目の前に広がっていた。
「綺麗⋯」
「ピギャア!」
昨日までただの地面だった場所のあちらこちらに、色とりどりの綺麗な宝石のような石が転がっていたのだ。
『今地面に落ちている石の数々は、魔石と呼ばれる魔力を内包した石になります。
魔力が溜まりやすい場所では、時にただの石がある日突然魔石へ変異することがあるのですよ。
⋯ただ、今回はたまたまこの辺り一帯に散らばっていたのを見つけて私とソイルの二人で集めて置いただけではありますが⋯』
いつの間にか土壁に登っていたコロが教えてくれた。
「えっ、二人がこんな綺麗な石を沢山集めてくれてたんだね。見張りをしながら集めるなんて大変だったと思うのに本当にありがとう!」
『喜んで頂けて何よりですエニカ様!』
「ピギャッ!」
二人とも何事もなく、こんな宝石を集める時間があったってことは洞窟の防御魔法が何とか今日まで持ったってことなのかな。
『魔石はどの属性の魔力でも力を込めるとその魔石が持つ魔力属性に変換して使用することが出来ます。
勿論、その魔石と同じ属性の魔力を流せば、魔石の力が強くなったり耐久性が持続しやすくなります。
逆に別属性の魔力は変換出来ますが、耐久性が低くなってしまうのが難点です。
ですが、ちょっとした魔法の発動に利用したり、売却や魔力の補給用にしたりと用途が多岐に渡るため、持っておいて損はないかと思われます。
エニカ様がよろしければ、出発前に目ぼしいものをあらかた集めましたら、こちらの魔石の数々をソイルにあげてもよろしいでしょうか?』
「二人が集めてくれたものだから、どう使って貰ってもいいよ」
『ありがとうございます!』
「ピギャッ!」
「⋯ちなみにソイルの魔核の安定には魔石って使えないの?」
『良いところに気付かれましたねエニカ様。エニカ様の聖水も魔石も共に魔力が含まれます。
しかし、魔石は当たり外れが大きく、目の前にある魔石はエニカ様の聖水と比べたら足元にも及ばない程、魔力の程度が低いです。
ソイルの身体の安定には使えそうなので余りを食べてもらうつもりではおりましたが⋯』
「なるほどね⋯」
やっぱり別案はすぐには見つからないか⋯
ひとまずはトイレの方を深く考えないようにしてお願いしよ⋯




