第三話 始まりの洞窟にて3
『では主様!どのようなことからお知りになりたいですか?私にお答え出来ることなら何でもお答え致します!』
キラキラとした目で私の言葉を待ってくれる置物くん(仮称)。
どんなことから知りたい、か。
聞きたいことが多すぎて、いざ質問していいってなったらどれから聞くか思いつかないな……
『もし、私に何を聞くか迷われているようでしたら、まずは一緒に少しだけ外に出てみませんか?』
迷っていた私を見兼ねたのか、置物くんが声をかけてくれた。
「そうだね…まずは一度、外の様子を見たいな。君の口ぶりから地球じゃなさそうだし……」
まずもって置物くん自体が地球上の生き物ではなさそうだし。
「では参りましょう!ご案内致します!」
ピョンっと膝から飛び降りた置物くんの後ろをついていくことにした。
ここに私一人しかいないと思ってた時にあんなに迷っていた一歩は、今なら簡単に踏み出すことが出来た。
――――――
「ここは…?」
出入り口までの道のりは途中緩やかな坂になっていたけど思ったより歩きにくさを感じず、何事もなくほぼ真っ直ぐに辿り着くことが出来た。
出入り口に近付くにつれて周りが徐々に明るくなってきて、外に一歩踏み出した途端、光が差し込んできて闇に慣れた目には眩しかった。
段々と光に目が慣れてきて、辺りを見渡してみるとそこは一面に広がる木、木、木、言ってしまえば森に出たようだ。
後ろを振り向けば岩肌に人一人が余裕で通れる程の穴があった。
今までいた場所はやっぱり洞窟だったようだ。
だけど見た感じ、あるがままの大自然に囲まれていることと洞窟内にいた置物くんやご遺体さん(ご遺体だけだと呼び捨てしてるようで気になってきた)以外は、土や岩肌は茶色で、周りにある木も地球にもありそうな見た目。
洞窟の前が少し開けていて、そこから見える空も晴れ渡ってキレイな青空だ。吹く風も爽やかで特別暑くも寒くもない。景色や気温は地球とそう変わらないような気が……
『主様洞窟へお戻り下さい!!』
「へぶっ!!?」
置物くんから勢いあるタックルをかまされ、何が起こったのかよく分からないまま、よろけて洞窟へ戻った時だった。
明るかった空が突然真っ暗になり、空からゴロゴロと音が鳴りだしたのだ。
『無礼を働き申し訳ありません。ですが、この位置から空をご覧下さい。決してこの位置から外には出ないように』
「痛た…そ、空?」
置物くんの真剣な様子に指定された場所から空を覗き見る。
「へ……?」
そこには空一面覆う程の大きさの、雷電を纏った鳥が飛んでいた。
『あれはサンダーバードという雷魔法を操る巨鳥型の魔物になります。この辺りにはいない筈でしたが、雷雲を求めて渡っている最中なのでしょう。あれが上空を飛行中は纏っている雷が地上に落ちやすくなるので大変危険なのです』
せっかく置物くんが今も空を覆う巨大な鳥の解説を分かりやすく教えてくれているのに、いざ目の当たりにした現実に、私の頭と耳はその知識を取りこぼしてしまっていた。
「こ、ここは本当に何てところなの……?」
思わず小さく呟いた言葉に、置物くんが気遣わしげにそっと答えてくれた。
『ここはエターナレン。主様がおわしました「地球」とは大きく異なり、今のような魔物がごく普通に存在し、魔力を生命維持や生活に欠かせない動力源として行使され、世や国を治めるは人間種ではない、主様からご覧になればいわゆる人外と呼ぶような数多の種族が時に争い時に力を合わせて暮らす、地球とは別次元に存在する世界、となります』
ああ、やっぱり私は来てしまったようだ。地球にいた頃によく見ていた小説や漫画、アニメの舞台として描かれていた異世界へ。
そんな、そんな……!
「あんな主人公たちのように逞しく生きてける自信なんて微塵もないんですけど……!!?」
『あ、主様ぁぁぁ!!?お気に確かにぃぃぃ!!!』
あまりの絶望にグシャァッと倒れ伏した私に、置物くんがあたふたと駆け…跳ね寄ってきてくれた。
「いくらチート能力があったり、神様とかの最強サポートがついたりしても、いきなり常識も価値観も言葉も文化も根っから違うかもしれない未知の世界に、転移だか転生だかで放り出されてよく発狂しないよね主人公たちって…私にはムリだよムリ発狂しそう」
今まで張り詰めていた緊張の糸が魔物の出現で切れてしまったようだ。何だか自動投げやりモードに入ってしまったようで思うように身体が動かせない。
『ああお労しや主様…壊れかけたお姿もまた麗し…ゴホンゲフン!今は難しいかもしれませんが、お気を落とさず……』
このグロッキーな姿の私を見て今麗しいって言いかけなかった?聞き逃さなかったよ私。
それはそうと、洞窟の出入り口という場所も気にせず倒れたままで、置物くんと話そうとしない態度の悪い私を咎めることもなく、置物くんは傍まで来てくれた。
『主様の心中、お察し致します。ですがほんの少しでも構いません。私めの言葉を聞いてもらいたいのです。
ここは私の創造主であるマスターの防御魔法で安全を保っております。しかし魔法は永遠ではありませんし万能でもありません。ここでは風邪をひかれたり、魔物が寄ってくる可能性があります。一度奥へ戻りませんか?
もしここが良いというのでありましたら、私も最後までお供します』
私の顔の近くでポスっと座り込み(?)を決めた置物くんを見て、私の投げやりモードは自動から手動へ切り替えることにした。