第二十一話 洞窟の近辺にて3
「コロ、お願いがあるんだけどさ⋯」
『エニカ様、現在貴女様の命が危険に晒される可能性がある状況下のため、内容によってはご了承致しかねることがありますがよろしいでしょうか?』
「あの魔物に話しかけてみたいと思ってんだけど、コロ的には⋯」
『いけませんエニカ様。同情を誘って襲うタイプの魔物もおります。あの個体は身体が小さい分、知恵が回るタイプならばかなり厄介です。
地属性の魔力が使えるでしょうから、あのように我々の関心を引いて近寄った瞬間に、土魔法で落とし穴を作ったり、石魔法で串刺しにしてくる可能性もあるのですよ』
どうしてもあの魔物のことが気になるからコロに協力してもらえないか相談しようとしたけど、コロから正論で断られてしまった。
でもコロが私のことを守ろうとして厳しく言っていることも分かる。
『あの土塊、泣いてエニカ様の関心を引き同情を誘おうだなんて随分と嫌らしい真似をするものですよ⋯泣き真似と分かり次第、そのまま土饅頭にしても良さそうだ⋯』
コロ自身の私情もちょっと入ってそうだし何か怖そうなこと言ってるけど、もう一回頼んでみてダメなら私も引こう。覚悟を決めて口を開いた。
「お願いを聞いてくれたら、私がトイレした後、清める時に何をしてもいいし何も言わないようにするけど、どう⋯?」
『あの魔物が一瞬でもエニカ様に害を為そうとした場合、どのような手を使っても殲滅してよいとのご許可を頂ければ可能な範囲でお話を聞きましょう』
「あ、ありがとう⋯」
ダメ元で交渉してみたけど応じてはくれるみたいでひとまず安心した。
恥じらいとか人として大事そうなものは引き換えにした気がするし、あの魔物が私に害意とかあった場合倒されることが確定してしまったから、どうか穏便に事が済んでほしい⋯!
――――――
『ではエニカ様。なるべく魔物から目を離さず、確認しながらゆっくり近付くようにして下さい。
ですが、近寄る範囲はあちらにあります蔓の垂れ下がった木の辺りまでです。
あの木の辺りなら、万が一のことがありましても私の攻撃範囲内なので対処が可能かと。
しかし万が一、魔物が不審な動きをした場合は私からの約束の通り、殲滅致しますのでご了承下さい』
「分かったよ。でもコロがサポートしてくれるから安心した」
『私もそのお言葉に応えられるよう最大限努力致しますし、命に代えてもお守りしたいと思います。
しかし、このような状況下において私でも「絶対」や「必ず」は言い切れないのが本音です。
何が起こるか予測の出来ない事態もありえますので、あの魔物に心を許しすぎませぬよう、お気をつけ下さい』
「うん、分かった⋯」
コロからの注意を心に留めながら、魔物に近付いてみることにした。
騙されているだけかもしれないし、気の所為なのかもしれないけれど、あの魔物の反応はまるで置いて行かれた子どもに見えて放っておくことが出来なかった。
「ピィ⋯ピィィ⋯!ピッ?」
未だに地面に突っ伏しながら泣いている魔物に、そっと近付いた。
コロとの約束があるからあまり近くまで寄ることは出来なかったけど、それでも魔物は気付いたようで顔を上げた。
「ピッ!!ピギャッ!ピギャァ!!」
土の魔物はパァッと表情が明るくなり、目に見えて嬉しそうに声を上げ始めた。
⋯ちょっと可愛いと思っちゃった。あれがもし私を騙すための嘘ならかなり傷つくな。
『エニカ様、あれは攻撃の前の予備動作かと思われます。攻撃してよろしいですか?』
「もう少し様子見させてくれない?」
『承知致しました。さもエニカ様に来てもらえて嬉しいアピールをかましてエニカ様に媚を売るなんて⋯』
コロの判断も適切かと言われれば現時点では微妙だし、かと言ってあんまり近寄るのもちょっと怖いし⋯
そう悩んでいた時だった。
「グルルル⋯」
コロの声ともあの土の魔物の声とも違う、不穏な唸り声が聞こえたのは。
ベキベキッ!バキィ⋯!
唸り声と共に木がへし折られていく音が近付いてくる。
「何か来る⋯!?逃げないとっ⋯!」
『お待ち下さい!あの唸り声は肉食獣型の魔物かもしれません!あの手の魔物は逃げる獲物を追いかけてきます!ここで迎え撃つしかありません!!』
「ええっ!?」
『来ますよっ!!』
心の準備をする間もなく、その魔物は現れた。
さっきまであった蔓の垂れていた木を簡単になぎ倒すほどの巨体。
低く響くような唸り声。口からは鋭く大きな牙が覗き、ボトボトと涎を垂らしている。
特に目につくのは、ただでさえ大きな身体をさらに威圧的に見せるかのような、背中に尖った岩がいくつも生えている、大きな黒い熊の見た目をした魔物だった。




