第二話 始まりの洞窟にて2
連投失礼致します。
主様?この世界?人工スライム?そもそも置物が動いて喋ってる?何で?どうやって?
他にも気になること言いたいことは山程ある。だけど私の口から出た言葉は一つだった。
「ほ、骨が動いたんじゃなくて良かった〜!」
安堵のため息とともに思わず地面に座り込んでしまった。
動く筈のない白骨死体が背を向けた途端、動き出して襲ってこようとする最悪のホラー展開になったんじゃないかと気が気でなかったからだ。
『主様!?いかがなされましたか!?』
動く置物はソフトボールのようにポンポン飛び跳ねながら心配そうに近寄ってきた。
本当であれば置物が自由自在に動いて話しかけてくるのも十分ホラーだけど、白骨化したご遺体が動くのと比べたら遥かにマシである。それに……
『主様?具合が悪くありませんか?どこかお怪我は?』
「……心配してくれてありがとう。大丈夫だよ」
この小さな生き物(?)の正体はよく分からない。よく分からないまま、話しかけたり触っていいものかとも思う。
だけど落としたランタンから小さい身体で助けてくれたことは紛れもない事実だ。
そっと頭(の辺りと思われる部分)を撫でれば、つるりとした手触りなのに、さっき触った時の硬い感触が嘘のように柔らかかった。
そうだ。ランタンの時のお礼も言ってなかった。せっかくじっとしてくれているから、今のうちに伝えてあげたいな。
「それとさっきは助けてくれてありがとうね」
『……主様』
今まで何も言わずに撫でさせてくれた置物が突然、私に呼びかけてきた。
そういえばこの子、私を主様呼びしてくるから違う誰かと間違えてるんじゃないか確認しないとだった。
「ん?どうしたの?」
ひとまずは用件を聞いてみる。あれ?気のせいかちょっと震えているような……
『主様に触れて頂けるなんて……どうかこのまま……』
「このまま?」
どうしたんだろう?もしかして本当は触られるの嫌だった?でも嫌ならこのままって言わないか。どうしたんだろう?
『頭だけでなく、主様の柔らかく温かいお手で先程のように私の全身をくまなく弄っては頂けないでしょうか……?』
期待に満ちた瞳と視線がかち合った。
「よし!とっとと外の様子を見に行くとしようかな!!」
『あああ!!お待ち下さい主様!!何故そんなことを急に仰るのです!!?外は丸腰では危険だらけですし、主様この世界のこと何もご存知ではないでしょう!!?せめて私の話を聞いてから共に参りましょうぅぅぅ!!!』
おっと思わず周りをよく見ずに出入り口方面に向かうとこだった!
相手がどんなんかよく分からずにコミュニケーションを通り越して、スキンシップを図るのはさすがに迂闊過ぎたね。
もっと相手のことを知ってからスキンシップって図らないとダメなんだって学んだよ。
――――――
『やれやれ。主様、お外に興味があるのは分かりますが、見知らぬ場所や見慣れぬものがあるところで周囲をよく見ずに走り出すのは些か危険ですよ』
「見慣れぬもの筆頭に正論で諭されている……」
あの後、必死な様子で呼び止める置物の言葉に一理あると思い直した私は、置物に言われるがままご遺体と黒い箱が置いてあるところまで誘導され、勧められるまま黒い箱の上に座らせてもらい、気付けば膝の上を置物にちゃっかり座られて話を聞くことになっていた。今更かもだけどこの子の距離の詰め方エグい速さじゃない?
そもそもこの子が妙なことを口走らなければ走り出すことはなかったんだけどね。
腰を落ち着かせたところで、置物のような生き物を改めて良く見てみることにした。
初めて見た時と見た目が大きく変わった部分は二つ。形と二つの黒目がついたことだ。
最初は雫型だったけど、今はぽってりとした楕円型になっている。
二つの黒目もパッチリとついていて、よく見てみると瞳の中にもブラックオパールのような濃い虹色が時折煌めいていた。
ちなみに口になりそうな部分は見当たらなかった。どうやって喋ってんだろう?
私がジっと見ていたことに気付いてしまったのか、置物も私を見つめ返してきた。
「あ……勝手に見ちゃってごめんね。キレイだからつい見ちゃって……」
『いいえ全く構いませんよ主様。主様のお目を独占できるだけでなく褒めても頂けるとはむしろご褒美です!叶うことならばここで生涯、私たち二人きりで見つめ合って過ごしたい程に!』
「ところで色々聞きたいことがあるんだけど、聞かせてもらっていいかな?」
『勿論です!何なりと!』
ふぅ……急な話題の転換に応じてくれて良かった。この子と話す時、ちょっと注意しないと暴走しそうなこともよく分かったよ。
なんか本題に入る前から酷く疲れた気がする。
この子から話を聞いた時に正気を保てるのか不安がよぎった。