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第百一話 とある屋敷にて

 コロ達と相談したとはいえ、あれよあれよと言う間に来ちゃったけれど⋯


「ようこそいらっしゃいました。ここは罪人奴隷の斡旋所となっております。

 早速ですがご所望される奴隷の情報をお教え頂いてもよろしいでしょうか?」


 まさか奴隷を⋯しかも犯罪者を買うなんて夢にも思わなかったよっっっ!!!!?

 斡旋所の職員さんに気付かれない程度に遠い目をしながら、一昨日から今に至るまでの経緯を思い出していた。


――――――


 一昨日の夜、みんなから逆に励まされた私は何とか泣くのを止めて落ち着きを取り戻すことが出来た。

「何かごめんね⋯私の方が色々心配掛けちゃったね⋯」

『いいえ⋯と申し上げたいところですが、今回は流石に私も無い肝を冷やしました』

「ピギャァ⋯」

「そうだね⋯今回は結果的にエニカ姉様もボクも無事だったけど、次はそうとは限らないんだって思い知らされたよ」

 どこか溜め息をついたようなコロと同意するソイル。

 ヒサメは私の涙で矢を受けた部分が治ったらしく、右手を何度もグーパーしながら動きの確認していたけど、その表情は冴えず曇っていた。

『⋯⋯実は今回の盗賊に襲われたことを受けて一つ、私から提案があるのですが、皆さん聞いて頂いてもよろしいでしょうか?』

 どことなく重くなっていた雰囲気の中、意を決したようにコロが口を開いた。

「コロ、私もね、コロの後でいいからみんなに話したいことがあるんだけど⋯いいかな?」

 コロの言葉を聞いて今がチャンスだと思った。

 私も今回の件で思うことがあったから、いつ話すかでちょっと悩んでいたけど⋯コロの提案を聞いてから私の考えを話した方が、みんなで話し合えないかと思ったからだ。

『それならばエニカ様。お先にお話し下さい!』

「いや、コロからでいいよ。私が後に言い出してるからさ」

『いえ、エニカ様から仰って頂いて⋯』

「コロから話していいんだけど⋯」

「もう切りが無いからエニカ姉様から話してもらっていいかい?コロ君、多分譲らなさそうだしさ」

「ピギャッ」

 私とコロのやり取りに痺れを切らしたヒサメが呆れながらそう提案してきた。

 ソイルも仕方が無いものを見る目で頷く。

 いつまで譲り合ってもしょうがないのも分かるから、私から話すことにした。

「ならコロ、ソイル、ヒサメ。

 私から話させてもらうけど、この街での滞在、もう少し延ばすのはどうかなって思っててさ⋯」

 私からの話というのは、ファレスタでの滞在の延期についてだ。

 当初は三、四日内で依頼を受けたり、必要な買い物をして街を出る予定で話していたけど、今回盗賊に襲われてから私自身、色んな部分で力不足であることを痛感した。

 長期の滞在は私の正体がバレるリスクが高まる、というのは承知している。

 だけどこのまま色々な準備不足のまま旅立ったところで、似たようなピンチに陥ったり、今度こそ最悪の事態になりかねないと思い、ギルドの依頼を通じてでも魔法の練習や出来ることなら戦闘経験を積んでから旅を続けたいと思った。

 それに今受けてる水属性の魔石集めも終わってないしね。

 そんなことをみんなに話してみると⋯

『私は賛成ですエニカ様!

 滞在の延期については、私からも今からお話しさせて頂く提案とは別にご提案させて頂くつもりでしたので異論は御座いません!』

「ピギャピギャッ!」

「ボクも賛成だよ。エニカ姉様の寝食と安全が保証される場所で体調や準備を整えた方がいいと思ったからね」

 概ねみんなからの賛成を得ることが出来た。

 滞在を延期するために必要な細かい話はコロの話が終わってからすることになった。

「それじゃあコロ。提案って何か話してもらっていい?」


『勿論ですエニカ様!私からの提案というのはですね⋯

 罪人奴隷の購入を検討したいと思いますが、皆さんいかがでしょうか?』


「へ?」「ピッ?」「は?」

 私とソイルとヒサメの時が一瞬止まった。

 「罪人奴隷」という単語の圧が強すぎたからだ。

 ど、奴隷⋯?現代日本で生きてきた私にはそれだけでも抵抗があるのに、罪人の言葉までついてくるとなったら正直怖いし嫌だという気持ちが先立った。

「コロ君。奴隷を買うのはともかく、罪人なんて聞き捨てならないよ。何らかでも罪を犯しているなんて危険な奴、エニカ姉様の傍に置いておくのはボクは反対だよ」

「ピギャッ!」

 私より先に正気に戻ったヒサメの反対意見にソイルも力強く頷く。

『ヒサメやソイルの意見は最もです。

 私も大変迷いましたが、理由と共にまず罪人奴隷とは何かをご説明致しますので聞いてもらってから再度考えてもらいたいのです』

 コロの説明では、


・罪人奴隷とは、この世界で軽犯罪にあたる犯罪を犯した者に与えられる刑罰の種類の一つ。

 罪人奴隷落ちした場合、定められた期間、罪を償うために引き取り先の主人の下、奴隷として労働や奉仕活動に従事しなければならないとされる。

 この刑罰は犯罪者の更生を兼ねており、引き取り先となる主人が見つかった後、引き取り先で定められた期間、模範的に過ごせば罪を償ったと見なされ罪人奴隷としての身分から解放される。

 引き取り先の主人が見つからない場合、斡旋所で必要最低限の生活保障はあるも、罪人奴隷としての解放は原則無しとなっている。

 また、斡旋所にいる罪人奴隷は引き取り先の主人がいる罪人奴隷よりも様々な制限が課せられているため、罪人奴隷の身分から解放されたいと考える者は少なくない。

 しかし、一度罪人奴隷落ちした場合、罪人奴隷であった期間に知り得た主人側の情報などを生涯に渡って漏らしてはならないという守秘義務が発生し、それを破った場合は違反行為として最悪再び罪人奴隷落ちさせられることがある。

・罪人奴隷は期間中、特殊な魔法が込められた入れ墨と手足の枷が施される。

 もし引き取り先の主人への攻撃や脱走などの違反行為が行われた場合、入れ墨を施した顔面に違反行為の数だけ紋様が表れるようになったり、主人側が命じることで枷による拘束が可能となる。

 罪人奴隷から解放された場合、入れ墨と枷を解除してもらえる。

・罪人奴隷の購入は公的機関にあたる斡旋所で可能。罪人奴隷としての期間の確認も各地区にある斡旋所で出来る。

・罪人奴隷の購入は比較的安価で容易に行えるが、主人側は罪人奴隷側の生活を最低限保障する義務が生じる。

 また、罪人だからと不当な扱いを原則してはならないとされている。しかし、罪人奴隷側の違反行為が顕著であったり悪質である場合は、顔面の紋様が増えていることなどが分かれば主人側の判断による罪人奴隷の処分は可能。

 しかし、罪人奴隷側が不当な扱いを受けていることが判明したり、罪人奴隷による周囲への他害行為があった場合、監督不行き届きとして主人側が罰せられることもある。

・コロが罪人奴隷を提案する理由は二つ。

 一つは戦闘が可能で、かつ必要時はある程度の制御が私達の方で出来る人材を比較的確保しやすいこと。

 もう一つは厳格な守秘義務が発生するため、私達の秘密が漏れにくくなること。

 この二つを想定して提案したのこと。


 といった話を聞くことが出来た。

「最初罪人奴隷って聞いた時、正直不安があったし犯罪者で怖そうだから嫌だなって思ったけど、色々な決まり事っていうか制約があるみたいだね」

『主人側に課せられる義務や責任も多少ありますが、罪人奴隷側と比較しますと形式的なものになります。

 犯罪を犯した者でありますので、実際は罪人奴隷側の制約の方が多くあります。

 今の私達には今後の外出やギルドの依頼を受ける上で、エニカ様の護衛となる戦闘力のある者が人手として優先的に必要だと思っております。

 しかし、冒険者や傭兵を雇うとなりますと雇った側への配慮や継続的な出費、それ以上に守秘義務はあれど実際情報が守られるかといった信頼性などを考えますと、特に厳格な守秘義務が発生する罪人奴隷は選択肢の一つとして検討してよいのではないかと判断致しました』

「なるほど⋯確かにその話を聞いたらコロ君が罪人奴隷なんて言い出したのも一理あるわけだ」

「ピギャッ」

 コロの説明を聞いて、ヒサメとソイルも納得したみたいだ。

 ⋯正直不安が全くない訳ではないけど、コロの言い分も最もだし、良い人材がいなければまた考え直したらいいことかと思い直すことにした。

「そしたら、早速次の日辺りに斡旋所に行ってみてどんな人達がいるか聞きに行ってみようか」

『はい!』「分かったよ」「ピギャッ!」

 その日は今後のことも少しだけみんなと話をしてから休むことにした。


 ちなみに次の日、斡旋所に行こうとしたけど「今日一日は身体を休めた方がいいわ」「⋯出歩くのは屋敷の中までにしておけ」というマーサさんとクリストフさんからの善意と、ブランシュさんによる鉄壁の出入り口の護り、ブラウニーの子達による厳重な監視の目により、強制的に翌々日である今日、斡旋所に行くことが出来たのだった。

 ⋯マーサさん達の優しさは本当にありがたいし、温かくて嬉しい。

 けれど、水属性の魔石集めの期限も近づいてきたから、集中して人材探しをしたいと思うよ!犯罪者だけど!!

次回更新日は4/19の予定です。

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