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第九十七話 帰り道にて3

「お前らがこのデカブツに気を取られている間に気配を消して近付いて正解だったぜ。

 お嬢さんよぉ、炎魔法は使うなよ?

 使えばコイツがテメェの細ぇ首を掻っ切ることになるかんなぁ」

 右手首を力任せに握られながら、男の方へと無理やり引き寄せされる。

 その片手には剣を持ち、刃先を私の首元へと突きつけていた。

「ピギャァッ!!」

「このクズがっ⋯⋯!!」

 憎々しげな目で盗賊の男を見るソイルとヒサメ。

「捕まってごめん⋯」

「おい勝手に喋るな。しかし大した女だぜ。

 ガドルの奴、オツムは弱ぇが戦闘力はそれなりにあるからよぉ。油断していたとはいえあの巨体を燃やすってぇなあ。

 ただ殺すにゃ惜しいが目の前の従魔共も目障りだな。まあ⋯」

 男が厭らしい目で見ながら私の身体を触ってくる。

「仲間達を何人か殺られてんだ。

 詫び代にテメェを従魔共の見ている前でヤッてからじっくり殺したって良さそうだなぁ」

 じっとりした男の声と、あまりにも身勝手で気持ちの悪い言い分に涙を零しそうになった時だ。

(『エニカ様、聞こえていましたらこのまま私の指示をお聞き下さい』)

 コロの声が頭の中に響いてきた。その声はいつになく静かで無機質な印象を受ける。

(『賊を見失った挙げ句、エニカ様を危険な目に合わせてしまった償いは必ず致します。

 どうか今一度、私を信じて次に声を掛けるまで目を瞑って頂けないでしょうか?』)

 コロの言葉に一瞬考え込んでしまった。

 コロを信じていないからじゃない。コロが何をしようとしているかが分からなくて戸惑ってしまった。

「ん?大人しくなったな。このままイイコにしてるんならたっぷり可愛がってやっても良いぜぇ」

 空いた男の手が服の中に入り込もうとしている。

(『お願いです⋯!エニカ様⋯!!』)

 再びコロの懇願するような声が聞こえた瞬間、答えは決まった。

 コロの言葉を信じよう。

 そう思いながら祈るように目を閉じた。



「何だっ!!?何も見えねぇ!!!クソッ!!」

(『エニカ様目を開けてそのまま走って下さい!!!』)



 男の戸惑う声と、コロの叫ぶ声を合図に脇目も振らず真っ直ぐに走り出した。

「エニカ姉様!!」 

「ギィッ!!」

 走った先にヒサメと大きくなったソイルがいて、ヒサメに抱き止められるとソイルが私とヒサメを庇うように前に出た。

「ありがとう⋯!」

「礼は後でね!今はまだアイツに集中しないとだよ!!」

「ギィッ!!」

「一体何をしやがったクソアマッ!!炎属性以外の魔力も持ってやがんのかっ!?」

 ヒサメとソイルの言葉に喚き散らす男を見れば、片手で両目を覆いながら刃を向けてくる姿が見えた。

「? 何を言ってるの⋯?」

「とぼけんじゃねぇ!!俺の目ぇ潰したろうが!!

 どうやったかは知らねぇがもう許さねぇ!!殺してやる!!!『起きろガドル!!』」

 男が叫んだ途端、黒焦げになって倒れていた巨人がゆっくりと身体を起こした。

「あ、うぅっ、うっ⋯」

 息も絶え絶えなのに、その足取りはゾンビのように覚束なくとも確実に私達の方へ向かってきてきた。

(『あの首魁の男⋯霊属性の魔力の使い手のようですね。

 ですから気配の消し方も私達の認識を鈍らせるよう魔法を掛けていたようですし、今も焼死体になりかけた巨人を操っているのは魂に作用した魔法を掛けたからなのでしょう』)

 霊属性の魔力を使った魔法怖っ!?じゃなかった、コロ!!走れって言ったきり、何も言わなくなったから心配したよ!!!

(『エニカ様、私を信じて下さってありがとうございます。ですがその感謝はこれらを全て排除してから改めて申し上げることに致しましょう!』)

 コロの言葉に返事をしたかったけど、この戦いに決着をつけることが一番の返事になると思い直して前を向いた。そこに広がっていた光景は⋯⋯

「あ、ぐっ、うぅ、ぐぉぉ!!」

「ギィ!!ギィィ⋯!!」

 襲いかかろうとした黒焦げの巨人は、ソイルが大きな流砂を作って動きを止めようとした。

 だけど、死にかけていて火事場の馬鹿力みたいなのを発揮しているのか、足が沈む前に流砂化していない地面に手をかけて何とか這いずり出てこようとしていた。

「エニカ姉様!今度こそボクが離れずついているから⋯ぐっ!!」

「ヒサメッ!?」

 私に倒れ込んできたヒサメ。その右肩には矢が刺さり氷魔法で出来た服ごと亀裂が入っていた。

 一体何処から矢が⋯!?


「チッ!オレを飛ばしたあのアマに当たらなかったか⋯!」


 声が聞こえた方を向くと、そこには先程私が土魔法で作った柱で飛ばした盗賊が弓を持って立っていた。

「遅かったじゃねぇか!!ソイツら仲間殺った上に俺の目を潰しやがった。全員殺せっ!!」

「おう!!言われずとも根絶やしにしてやるよ!!」

 リーダー格の男が弓を持つ男に命じる。

 弓を持つ男は威勢よく返事すると、すぐに姿を消した。

(『エニカ様⋯もう一度戦うことは出来ますか?』)

 小さく頷いてから膝を立てて体勢を整えようとした。けど、それは叶わなかった。

「あれ⋯?」

 両足に力が入らない⋯何で動かないの!?

(『エニカ様⋯!⋯両足に力が戻るまで円蓋型に土壁を展開出来ますか?矢の通らぬよう、空気孔を下に開けておきましょう』)

 コロは私の状態をすぐに察して具体的な提案をしてくれた。

 土魔法をもう一度展開しようとするけど、どうしてかドームのような形を上手く作ることが出来ない。

「エ、ニカ姉様⋯連続で使い慣れない魔力を使ったから疲れちゃってるんだよ⋯ボクが作るから⋯うっ⋯」

(『くっ⋯!ヒサメも水属性の魔石探索時より連続で魔法を使用しているので、身体の補修の方で魔力が手一杯のようです⋯!』)

 コロの言葉に焦りと不安ばかりがグルグルと駆け巡る。

 そんな時、ふと思い出したのはヒサメと初めて出会った時のこと。傷だらけのヒサメを私の涙で治したことが思い出された。

 ⋯また私が涙を流せばヒサメの怪我は治るかも!

 そう思って目を強く瞑ったり、逆に何度も(まばた)きをしてみた。

 ⋯ダメだ!泣きたい状況の筈なのにこんな時ばかり涙が出てこない!

 ⋯もしだったら涙の代わりに使えそうなものがあるよね。

「無理したら駄目だよヒサメ。私が何とかしてみせるから。」

(『エニカ様何を⋯!?』)

「エニカ姉様⋯?」

 本当はナイフで切るのが確実だろう。でも探す時間が勿体ないし、そもそも探す時間自体無い。

 血が涙の代わりにならないか、意を消して左手を歯で噛み切ろうとした時だ。

 

 


「さっきは良くも飛ばしてくれたなぁ⋯今度はオレがテメェらを飛ばしてやらぁ⋯女神サマの御下(みもと)までなぁ!!ギャッ!!」



「すまない。事前にコイツの矢を止めることが出来ずに。代わりと言っては何だがその悪党共の始末、加勢させて欲しい」

「怪しい男の後をついてってみりゃあ、まさか嬢ちゃん達に会うとはなぁ。たまげたもんだぜ」


 ⋯え?ローボルさん?ヒューズさん?どうしてここに?

次回更新日は4/7の予定です。

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― 新着の感想 ―
やったー加勢が来たぞ! 頑張れエニカちゃん!!
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