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第一話 始まりの洞窟にて

 ザァザァと激しい雨が降り続く夜。

 私、真中縁花まなかえにかは小さな箱に納められた両親たちを後部座席に乗せて家へと車を走らせていた。

 事故だった。信号無視の車が二人の乗る車に衝突したのだ。父と母は即死。仕事中、突然の両親の訃報を聞いて呆然とするしかなかった私をよそに、ふと気がつけばお葬式まであっという間に終えていた。

 生前親類との縁が遠かった両親の葬式は質素に粛々と執り行われ、実感が沸かないまま軽くなってしまった両親を抱えて家路へと帰ることになった。

(家……)

 雨が降りしきる中、ぼんやりと霧がかったような頭でもふと気付いてしまった。家に帰っても誰も私を待っていないことに。

 実家暮らしであった私には、今までは家に帰れば父か母がいて、仕事で遅くに帰ってきても「ただいま」といえば「おかえり」と言葉を返してくれた。

 その両親との何気ないやりとりが家に帰っても二度と出来ることはないのだと。

「やだ……何で今になって……」

 雨足の強まりと共に視界が段々と滲んでいく。運転に集中しなきゃと叱咤しても、車の内側で流れる雨は止まってくれなかった。

 そんな時だった。

「あっ」

 突然、目が眩むほどの光と今までの人生で体感したことがない程の激しい衝撃に包まれたのは。



――――――



 と、覚えている限りまでの記憶を辿ってみたが、目覚めてから今も目の前に広がる光景は私には全く覚えがないものだった。

 光源がなければ何も見えなくなる程の真っ暗闇。

 湿った土の匂い。

 直座りしちゃっているひんやりとした地面。

 ぽつりぽつりと置かれた誰が火をつけたか分からないランタン。

 仄かなランタンの灯りに照らされた、手のひらサイズの小さな置物と黒い大きな箱。

 周りを取り囲むゴツゴツとした岩肌。

 私の側で静かに横たわる、白骨死体。

 ………神様、私がそんなにお嫌いですかぁぁぁ!!!!!?

「こんなのあんまりだぁぁぁ!!!」

 内心混乱しっぱなしだったが、とうとう声に出てしまった。

 謎の光と衝撃が起こった後、砂と小石でザラザラした地べたの感触に気付いて目を覚ませば、もう今の有様だった。

 見渡しても乗っていた車も乗せていた両親の骨もなく、喪服のまま身一つで謎の場所で謎のご遺体と一緒に倒れていたようだ。

 ただでさえ突然両親が一気に亡くなり、悲しくて寂しくて心細くて現実をまだ受け止めきれていなかったのに、よりにもよって葬式の帰りに明らかに事案(?)に巻き込まれるなんて、一難去ってまた一難どころか一難去る前に三難は軽く押し寄せているレベルではないだろうか。

 隣に横になっていたのがご遺体だと分かった時なんか、ショックすぎて悲鳴すら出てこなかったし心臓も止まるかと思った。

 いつの間にか車から見知らぬ場所にいることの疑問、犯罪に巻き込まれてしまったかの不安、何より両親の骨が見つからないことへの絶望など、容赦のない現実に押し潰されそうになるが、まずはここがどんなところなのかを調べることにした。

 正直頭も身体も動かすこと自体がきつい。

 だけど、少しでも何か考えたり、身体を動かさないと隣で倒れていた人と同じ末路を辿るんじゃないかと酷く恐ろしくなった。

 最初に調べることにしたのは、目の前にある小さな置物と黒く大きな細長い箱の二つ。

 黒い箱の上にポツンと置かれた置物から触れてみることにした。

 置物の見た目は丸めな雫型のストームグラスに似ていて、手に取るとガラスのような陶器のような不思議な手触りだけど、不思議と冷たさは感じなかった。色は真っ白だけれどランタンの光の加減でオパールのように淡い虹色がキラキラチラチラと光って綺麗だ。

 ……お値打ちもののような気がするからこれ以上触るのは止めておこう。

 手に持ったときより慎重に小さな置物を箱の上に置いてから、黒い箱を調べてみた。

 箱の見た目はランタンで照らしてもなお真っ黒で、少し押しても全く動かないほど重い。箱の横幅は私の両手を伸ばしても両端に届かないぐらい長く、 高さは座り込んだ私の腰より少し高いぐらい。蓋をしているようで全部開かないように蓋っぽい部分を動かしてみたけど、鍵がかかっているか固く開かなかった。

 近くに置いているランタンは固定はしておらず、すぐに持ち上げることが出来た。

 ランタンは中に火を灯して使うタイプのようだけど、固形燃料なのか石のようなものから火が灯されているように見えること以外は普通のランタンに見える。

 あと身の回りのもので調べていないものは……ご遺体をまじまじ見て調べるほどの勇気は今はとてもじゃないけど持てない。出せない。

 身近にあるめぼしいものは(謎のご遺体以外に)あっという間に確認し終えてしまった。

 あと思いつく限りで調べた方がいいものは……出入り口と周囲の人の有無、分かりそうであれば今自分がどこにいるかの確認、ぐらいかな?

 今いる場所はパット見、岩肌や地面の感じから洞窟の一番奥まったところにいるんじゃないかと思っている。

 出入り口がありそうと思ったのも、最初は暗くて気付かなかったけど、ランタンを持って辺りを見渡したら通路のようになっているスペースを発見した。

 人の有無は私のいるこの空間には人どころか生き物の気配もしないけれど、もしかしたら出入り口付近に見張りとかでいるかもしれない。

 人がいることの方が危険な可能性は高い。でも何もしなければここで飲まず食わずで衰弱して、下手したら死んでしまうかもしれない。そう思い行動に移すことにした。

 何も無いよりは、と幾つか置かれたランタンを灯り用と何かあった時に殴ったり投げつける用の二つを手に持ち、通路へ向かおうとした時だった。


 コトンッ


 背後で小さな軽いものが落ちる音がした。

 ヒュッと息を飲む。身体は硬直したように動かないのに、飛び跳ねた心臓の動悸は治まらない。

 耳を澄まそうとしたけど浅い息が邪魔をする。

 後ろを振り向くか否か。頬を伝う冷や汗にさえ過敏に反応してしまう。

 物音の音源がもし、あの白骨化したご遺体からだとしたら……考えるのを一旦止めよう。

 そもそも後ろから聞こえた音なんて気の所為かもしれない。でももう走ろう。走るしかない!

 

 トンッ


 決意を何とか固め、動かそうとした足に硬い何かが当たった。

「あっ」

 足に当たった衝撃と酷い恐怖から、思わず右手に持っていたランタンを滑り落としてしまった。


『危ない!主様!!』


 小さな子供のような声と共に目の端に小さな塊が跳ね、地面に落ちる直前のランタンにおもいきり体当たりをかました。

 ランタンはガチャンと私の遠くで派手な音を立てて壊れてしまった。

『危ないところでしたね、主様!お怪我はありませんか?』

 子どものように高い声が再び聞こえた。

 何故私を気遣ってくれるのかが分からない。そもそも声の主は誰なの?

 呆然としながらも声のする方向へもう一つ持っていたランタンを恐る恐る向けた。

「え、と…あの、貴方は?」

『え?ああ!ご挨拶が遅れました!失礼致します』





『初めまして主様。私はこの世界で主様の良き相棒、良き下僕となるようマスターより仰せつかった人工スライムです。

 不束者ですが終生よろしくお願い致します』


 ランタンが照らしたのは、喋って動くオパール色をした置物だった。


 

 

 


 

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