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第五話 応戦

異世界に来て俺が愚息を晒すことになった獣人の女性の名前はレテというらしい。息子のお披露目会の後になんやかんやと自己紹介を終えて、近くの町まで案内してくれることになった。その道中レテにいくつかの質問をした。


「レテさんはこの森で何をしていたんですか?」


「レテでいい私と拳ニは同じ歳だ、あと敬語も不要だ。」


「ああ、わかったそうさせてもらう。さっきの質問には答えてくれるのか?」


「別に構わんぞ、森で何をしていたかだったな。私の職業は冒険者というやつでな、今日は森にヘヴィグリズリーという魔物の目撃例があったから依頼で調査に来ていたんだ」


「この森にも結構魔物って出るのか?」


「肯定だ、町の近くには魔物避けの結界が張ってあるからあまり見ることはないが、おまえが倒れていたあたりは危険度の高い魔物も時折現れているところだった」


「まじかよ、なら俺はそんな危険地帯にいきなり放り込まれてたのか、あの糞女神許せん!」


「町に向かう間も魔物が出る可能性はあるから気を引き締めておけ」


「わかった。気をつける」


レテは慣れた足取りで俺の前を歩きながら、常に周囲を警戒していた。すると、段々と歩みを進める速度がゆっくりになり、ふと立ち止まった。


「拳ニ、近くからおそらく魔物の臭いがする。警戒を怠るなよ」


獣人故の嗅覚からか、レテが俺に注意を促す。


だが、時は既に遅かったらしい。


魔物の嗅覚もレテと同様かそれ以上だったようで背後の茂みから、それは姿を露わにした。俺の語彙力でそいつを形容するならば超巨大な熊だった。体長5mはあろうその魔物は俺たちの世界のそれとは常軌を逸していて、息は荒く牙はするどい、身体は明らかに硬質の毛で覆われており、俺の攻撃が通るかも怪しい存在だった。

尚且つ俺は共感覚で地球の生物では見たことのない藍色のオーラのような物を認識していた。


「拳ニ、私の後ろに隠れてろ」


「あぁ、すまない。レテはこいつに勝てるのか?」


「愚問だ。これでもレグルスの冒険者の中で5本の指には入っているのだぞ。ヘヴィグリズリー1頭相手に遅れは取らん」


そう言って、レテは腰に携えていた2本の剣を抜く。そして、軽く息を吐いたかと思うと一気にレテのプレッシャーが跳ね上がった。


ヘヴィグリズリーもレテの力量を感じ取ったようで明らかに警戒の色を強くした。だが、いかに魔物といえど所詮は畜生だったようで、構わずにレテに向かって直進しその巨体から鋭い爪を繰り出した。


その刹那、巨大な熊の爪の外側に自信の右手に握っていたを沿わせることで受け流し、さらに左手に握られていた剣を突き立てヘヴィグリズリーの目に向かって刺し貫いた。


ヘヴィグリズリーはその一撃で絶命し、呆気なく地に伏した。そして、そこでロリ女神が俺に与えた役割を理解することになった。魔物の絶命の際に藍色のオーラのようなものと一緒に黒い何かが霧散していくのが、俺の目では認識できた。あれがおそらく瘴気というやつだったのだろう。


「それにしても、見事だったな。あんな化け物を一撃とか感動したぜ」


「大したことはない、獣人はニンゲンと違って運動能力のレベルが違うからな」


レテは得意げな顔で答える。

討伐の証明にとレテはヘヴィグリズリーの大きな牙を剥ぎ取り出したので、見学していると俺の身体に突如寒気が走った。その寒気の正体を俺は知っている。日本にいた時に父が鍛錬にと度々俺に浴びせていた物、その正体それは殺気だ。


俺は殺気の感じた方を向きレテに伝える。


「おい、気をつけろ多分ヘヴィグリズリーよりやばいのが来る」


「私の鼻では何も感じないぞ。気のせいじゃないのか。それにこの森でヘヴィグリズリーより強い魔物なんて聞いたことないぞ」


「いいから、早く警戒体制に入れ!」


焦りから、言葉尻が強くなってしまった。


そいつは木々を伝って、近くにあった大木の上から突如として舞い降りた。そして、着地した瞬間にわずかに地面が揺れた。

その大きさ自体はヘヴィグリズリーと比較すると対したものではなかった。しかし、地面の揺れからいって相当の質量を持った生物だと推測できた。なんなら俺と同じぐらいの体長のそいつは、ヒヒのような見た目だがおそらく、その語源になった妖怪の狒々と言ったほうが適当だろう。その存在を目の当たりにしレテの目は恐怖に染まっていた。


「何故こいつがこんなところにいる!」


「知ってるのかこいつのこと」


「やつの名はエンシェントゲルト、討伐難度Sランクの化け物だ。今の私の手に負える相手じゃない」


予想に過ぎないが木々を伝って高所を移動してきた為にレテの鼻の感知から逃れたのだろう、その魔物の所作からは僅かな知性を感じさせる。自分が強者であるという自負からか、こちらのことを狩って当然の獲物とでもいうような顔をしていた。

レテの顔から怯えを感じ取ったのか。気色の悪い笑みを浮かべたかと思うと、その狒々は大地を蹴り瞬く間にこちらとの距離を詰める。

明らかに、狙いはレテの首だと気づき俺は間に割って入る。そして、初動を俺の目が完全に捉えていたこともありカウンターの拳をエンシェントゲルトの顔面に突き入れることに成功した。


すると、とんでもない質量を感じさせていた魔物は背後の大木まで吹っ飛んで衝突を余儀なくしていた。

さっきまでニヤついていた狒々の如き顔は鼻がひしゃげて、俺の拳を受けた部分の牙も全て折れていた。

異世界に来てその瞬間まで自覚していなかったが、自身の身体能力が向上していることに気づいた。


「案外なんとかなるかもしれんな」


「拳ニ、おまえはやつの動きに対応できるのか!?」


「ああ、多分だけど戦ったなら俺が勝つ」


エンシェントゲルトは予想外のカウンターを受けたことに怒り、標的を俺に変更するようだ。


「グウォォォォォォォォォ!!!」


突如雄叫びをあげたかと思うと、その表情は簡単に狩れる獲物を見る物ではなく俺を正しく敵として認識した物に変わっていた。そして、息を大きく吸ったかと思うと身体に魔物特有の藍色とは別の緑がかったオーラのような物が陽炎のように揺らめき、やつが口を開けた瞬間何かが放出された。


「やばい!!」


俺は本能が警笛を上げるのを感じ、咄嗟に背後のレテを抱き寄せて、エンシェントゲルトの口という射線から逃れるように足を必死に動かした。

その刹那のことである。エンシェントゲルトの口から熱線が繰り出された。

俺達が元々いた場所を見ると背後にあった木々には大きな穴ができており、焦げたような臭いが辺りに漂っていた。


「モンハ◯にこんなやついたな」


俺は思わず呟いてしまった。

そして、距離を取られて熱線を打たれ続けるのは悪手だと直感しレテに声をかける。


「レテ、あいつは俺がどうにかするから、どうにかあいつの攻撃範囲に入らないようにしてくれ」


「どうにかできるのか?その言葉信じるぞ。今の私では足手まといになるだろうから、ひとつだけ約束してくれ」


「なんだ?」


「絶対に死ぬな」


「努力する」


その言葉を皮切りに俺はエンシェントゲルトに向かい地を駆ける。熱線は連発できないようで、エンシェントゲルトも真っ向から受けて立つように俺に対して鋭い爪で応戦する。くらえば致命の一撃だろうが、なんとかサイドに身体を捻ることで躱し膝蹴りを入れる。その技はムエタイでよく使われるテンカオという蹴りで、手応えは充分だった。

膝蹴りを受けたエンシェントゲルトは苦悶の表情を浮かべたが、そこに俺は追撃の肘打ちを前頭部にくれてやった。インパクトの感触に相手の頭蓋を砕き割ったのを感じると、エンシェントゲルトは空を仰ぎ見るように倒れた。


瘴気が霧散していないことからまだ絶命はしていないので俺はとどめを刺す為にエンシェントゲルトの喉元を踵で踏み抜いた。それによりやっと命を手放したのか瘴気が霧散するのを確認する。

命を賭けた闘いの終わりから、やっと肩に入った力を抜くことができた俺は少し離れたところで闘いを見守っていたレテの元に向かう。


「どうにか勝てたけど、流石に精神的に疲れたから何か食わせてくれないか?」


「エンシェントゲルト相手に疲れただけで済むのはおまえくらいのものだ。町に着いたら何でもご馳走してやるから楽しみにしておけ」


そう言ってレテは今日会ってから一番の笑顔を俺に向けた。


よかったら、感想と高評価よろしくお願いします。

特にこれからの改善点など知りたいので感想お待ちしております。

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