第四話 異世界転移
家族会議は悲惨なものであった。
まずは母が買い物に行っているタイミングに父は俺を呼び出した。
コンドームの着用の確認や、相手の親御さんの了承の有無の確認などしつこく童貞の俺に指導してきた。
母が帰って来てからはもっと酷いもので、初孫は男の子がいいだの自分にも会わせろだのと好き放題言ってきた。
何度説明してもまともに取り合ってくれない両親に対して俺は大声で怒鳴った
「俺は童貞だっっ!!!彼女も今までできたことなんかねえ!!!だから、赤飯もいらん!!!」
その言葉を最後に二階の自室に逃げるように去った。
◇◇◇
学校に行きたくない。
これがサザエさ○現象ってやつか、いや全然違うけどそう言うことにしておこう。
どう考えても、理由は杉田さんだった。明日どんな顔して教室に入ったらいいのか分からない。まず、杉田さんは何か俺に恨みがありその仕返しにあのようなことを言ったのではないかと邪推する。
睡眠を取ると大抵のことはすっきりして踏ん切りが付くだろうとたかを括り俺はふて寝した。
だが、朝目覚めた瞬間に思った。やっぱり学校に行きたくない。
ここで俺の睡眠療法は見事に敗れ去った事実に悲しみを覚える。間違いなく俺はサンショウオより悲しんでいる。
とりあえず、考えよう何かわかるかもしれない。杉田さんについて分析する必要がある。自分の知る範囲の彼女の情報をまとめることにした。
・金髪ゆるふわウェーブ
・白ギャル
・スカートが短い
・なんかいい匂いする
・顔は整っている(すっぴんは知らん)
・胸は小さくはない
・身長はおそらく160後半くらい
・学校の近くのマンションで一人暮らし
・両親は仕事でアメリカにいるらしい
・読者モデルとかやってるらしい
・Gカップの斑鳩さんと幼馴染
思いつく限りの情報を出したが、何も答えは得られなかった。そして、答えがないという事実から俺はひとつの答えを出した。
よし、学校をサボろう。
◇◇◇
学校をサボると決めた俺の行動は早かった。
母にはいつも通り学校に行くような素振りを見せ家を出た。
高校への道のりは電車で3駅先だが電車に乗る気分にもならず、家と駅の中間くらいにある公園で筋トレでもすることにした。
目的が決まると早いもので10分もかからずに公園に到着した。俺の目的は公園に設置されている遊具の鉄棒を使い自重トレーニングをすることだったのだが、公園には見知った顔の先客がいることに気づく。その先客は公園のベンチに座り思い悩んだ顔でひとり下を向いていた。
知らない人物なら無視して自重トレーニングで筋肉と語り合うつもりだったのだが、ベンチに座る少年は道場で俺が武術の指導をしている小学3年生のマサルだった。
「よお、マサルこんなとこでどうしたんだ?」
「拳二先生こそこんなとこで何してるの?」
質問に質問で返しやがった。
だが優しい俺は正直に答えてやる。
「今日は学校に行く気分になれなくてな。あの鉄棒で筋トレでもしてザボろうとしてるとこなんだよ」
「実は僕もそんな感じ、学校に行きたくなくてさ」
「珍しいな、悩み事なら聞くぜ!先生にまかせとけ」
「んー、先生が友達といるとこ見たことないから頼りになるのかなぁ・・・」
全くひどい小学生だぜ俺の心を的確にえぐってきやがる。
「話すだけでも楽になるかもしれないから言ってみ」
「うん、昨日のことなんだけど・・・」
◇◇◇
マサルの悩みは単純なもので仲の良い友達と喧嘩してしまい、相手が先に手を出してきたようでマサルも最初は我慢していたようだった。
しかし、怒りで何も考えられなくなった相手の子がマサルのお母さんが作ってくれた給食袋を踏みつけてしまったらしい。そこからはマサルも頭に血が上り道場で鍛えた技を使ってしまったようで、関節を極めて制圧した後相手の子が泣き出して絶交を言い渡された。
そこからは何度謝っても口さえ聞いてもらえなかったらしい。
「それマサル悪いとこあるか?」
「だって僕の方が強いことを僕はわかってたんだよ。それなのに道場の技まで使って・・・僕が我慢すればよかったのに」
マサルは今にも泣きそうな顔をしていた。
「マサルは悪くねえよ」
俺はマサルの頭に手を置き諭すように語りかけた。
「我慢は充分したじゃねえか、それにおまえの大好きな母さんが作ってくれた給食袋を踏みつけられたんだろ。そんなの怒って当然だ。おまえは誇りを守ったんだ。大事な人が作ってくれたものを踏みつけるなんてのは大事な人が踏みつけられたように感じただろ。むしろ、関節極めきって折らなかっただけマシだ。俺はマサルの先生になれたことを誇りに思うよ」
そう伝えると、マサルはダムが決壊するかのように泣き出した。
「ぜんぜえ、ぜんぜえ、ごべんなさい」
「なんで、俺に謝ってんだよ」
「だっでげんがに道場のわざ使っちゃだめって言われてだのに」
「誇りを守る為の漢の闘いを俺はガキの喧嘩とは思わねーよ」
俺は泣きじゃくる弟子の背中を優しく摩っていた。
しばらくすると、嗚咽の治ったマサルが俺に質問を投げかける。
「僕これからどうしたらいいかな?」
「好きなようにやればいいんじゃないか。相手の子と友達でいたいなら話あった方がいい。ただ、謝るのはやめとけ謝るのは自分の非を認めるってことだ。俺はおまえが悪いと思ってねーし。おまえも自分が悪いなんて思ってないだろ。そんな形だけの謝罪なんて何の解決にもならないからな」
「話も聞いてくれなかったら?」
「それはそん時考えたらいい、一度壊れて修復できないことなんてこの先いくらでもある。だからこれからはひとつひとつ大事にしていったらいいんじゃねぇかな」
「わかったよ。先生今日はありがとう。今日の先生は本当に先生みたいだったよ」
「まるでいつもは先生らしくないみたいな言い方だな、まぁいいけどよ」
「先生って強いだけじゃなかったんだね。僕、学校に行ってみるよ」
「ああ、頑張れよ。なんかあったらまた聞いてやる」
「先生ありがとう」
俺に礼を言ったマサルは立ち上がり、小学校の方向へ歩き出した。少し離れたところで振り返り俺に向かって声をあげる。
「先生も学校頑張ってねー」
その言葉に手を振ることで答えた。
マサルが見えなくなったあたりで弟子に偉そうなこと言った手前このままサボるのは格好悪い。そう思い直して学校に行く決心をした。
◇◇◇
公園に寄ったことで遅刻は確定している。今は1限目の時間だ。担任教師の数学の授業中の筈。その後に待っているお説教を考えて憂鬱な気持ちになったが俺は学校の門をくぐり気づけば教室の前まで来ていた。意を決して扉をスライドさせるとクラスメイトと担任の視線を集める。
「すみません。寝坊しました」
「おい東雲、俺の授業に途中参加とはいい度胸だな。今日の掃除当番は覚悟しとけよ」
「はい。今後気をつけます」
「もういいから席につけ」
俺は頷き窓際の一番後ろの自分の席に着いた。
その直後である。
教室の中心部から突如魔法陣のようなものが広がり、光ったかと思うと、世界が歪んだ。
今まで認識したことのない色を魔法陣のようなサークルから感じ取り、本能でやばいモノだと認識して2階の窓から飛び降りようとしたが叶わなかった。そこで俺は意識を手放した。
◇◇◇
「「起きて」」
頭の中に直接声が響き俺は意識を覚醒させた。
目を開けて辺りを見渡すとそこは白い空間だった。
そして、俺の正面には奇妙な色を纏った女の子が立っていた。今まで人間相手には見たことの無い色だった。一番近い表現で言えば虹色だ。服装はジーンズ生地のホットパンツに黒のキャミソールのラフな格好だったが、どうしてか人間には思えなかった。
「あのー、どなた?」
俺は女の子に話しかけた。
「「あなた達が普段神と呼ぶ存在、それに近しいものとでも認識しておいて」」
自称神の見た目年齢小学校低学年くらいの女の子の返答のおかげで奇妙な虹色を発していたことの答えが得られたのである種の納得をした。
おそらくソシャゲの確定演出の神かパチンコの神だろう。などとくだらない考えに頭を割きながらも俺は続けて質問する。
「その神様が何のようですか?あと、他のクラスのみんなはどうしたんですか?」
「「私の願いはひとつだけ、今からあなたを別の世界に送るからその世界の瘴気を祓ってくれればそれでいい。その世界は魔物で溢れていて段々と汚染が拡大している。そのせいで他の生き物が住めなくなってきているからあなた達に減らして欲しい」
めっちゃファンタジーやん。
これ噂の異世界転移やん。
最近流行ってるからって、別にワイは異世界なんか行きたないんや。
いきなりすぎて堪らんで、ほんまなんなんやこのロリ。
気が動転して俺の心境は関西弁になっていた。
「「他の子達には向こうでそのうち会えるから」」
そう言ってロリ女神が俺に向かって手を差し出した。
「「加護を授けるから握って」」
「キャンセルとかできません?」
「「無理、いいから早く握って」」
状況的に自分の力でどうにかなりそうもなかったので、仕方なく俺は右手を差し出してあきらめの握手が成立した。
「「加護は授けた。あとは頑張って」」
「まだ、聞きたいことあるからちょっと待って・・・」
他にも聞きたいことが大量にあったのに俺は意識を手放した。
◇◇◇
「おい、起きろ」
今度は脳内ではなく耳に響く高い女の声によって目を覚ました。
「あ、おはようございます」
状況がよくわかっていないのでとりあえず呼びかけていた人物に挨拶でジャブをいれる。
「こんなところで何をしている?ここはレグルス王国の領土内だぞニンゲン」
言葉の意味がわからず俺に声をかけていた相手の姿を確認すると、ショートボブのような髪型の若い女性で、耳が本来ある筈の場所ではなく上に付いており、更にはお尻の部分から細長い尻尾のような物が生えていた。ぱっと見、猫耳コスプレのようないで立ちである。周辺を見渡すとどうやらここは森の中のようで目に見える範囲には草木が鬱蒼と生い茂っている。
猫耳の彼女へととりあえずの質問をしてみる。
「あなたは人間では無いのですか?」
「貴様らニンゲンと一緒にするな我らはそんな軟弱ではない。それよりもここで何をしている目的を言え」
どうしよう、ここで正直に言った方がいいのかイマイチ判断がつかない。また、相手はおそらく獣人のような種族である。身体能力がどの程度かも未知数だ。相手が普通の人間であれば遅れをとらない自信はあるが、腰には2本の剣を携えているし、異世界と獣人という不確定要素が俺を悩ませる。糞ロリ女神に脳内で悪態を吐きながら俺は正直に答えることにした。
「俺は元々この世界の人間じゃありません。神を自称する女の子にいきなりこの世界に飛ばされて今に至るって感じです」
「!?」
獣人の女はものすごく驚いた顔をして、俺に聞いた。
「それは本当のことか?本当なら貴様は救世の勇者ということになる。私を謀るつもりならここで死んでもらうことになるぞ」
救世の勇者とかいう知らない単語を急に出されたことで少しテンパりながらもどうにか答える。
「救世の勇者ってやつが何かは知りませんけど、違う世界から来たのは本当ですよ。どう証明すればいいのかわかりませんけど」
「心配はいらん。救世主の勇者であるなら伝承によれば身体のどこかに魔力の宿る紋章が刻まれていると聞いた。それを見せろ」
「身体のどのあたりかわかります?」
「伝承の人物は背中にあったと聞く死にたくなかったら服を脱げ」
その言葉に従い着用していたカッターシャツを脱ぎ相手に背を向けた。
「紋章っての付いてます?」
「おい、貴様やはり私を謀っているのか、何も見当たらないぞ!」
相手の言葉に怒気が混ざり始めて俺に焦りが滲む。
こうなっては仕方ない下も脱ごう。
急いでベルトを外し、履いていた学校指定の黒のスラックスをパージして俺は一瞬のうちにパンイチになった。
「き、きさまぁいきなり脱ぎだすとは何事かぁ!!」
「すみません!下半身かもしれないから確認させてください」
俺は慌てて自分の下半身を確認する。しかし、どこのにも紋章とやらは見当たらず、足の裏まで確認したが該当するものは無かった。まさかと思い現在唯一着用しているボクサーブリーフの中を覗き込むと、それらしき物を見つけてしまう。最悪なことに位置的には右太腿の付け根の少し下辺りではっきり言ってしまうと息子のちょうど横の部分だった。
「まことに申し上げにくいんですけど、位置的に女性の方にお見せするのは憚られる場所に発見してしまい・・・」
「!?貴様そんな言い訳でこの場を乗り切れるとでも思っているのか?本当にあると言うのなら見せてみろ!」
そういって獣人の女性は俺のパンツという最後の砦を正面からズリ下ろした。
(ボロン)、俺の息子と共に紋章があらわになり怒気に溢れていた獣人は生娘のように頬を赤らめた。
「その、疑ってすまなかった」
「わかって、もらえたなら何よりです」
そうして、俺の異世界人とのファーストコンタクトは無事平和的解決に向かった。
よかったら、感想と高評価よろしくお願いします。
特にこれからの改善点など知りたいので感想お待ちしております。