第二話 東雲拳二2
時が経つのは早いもので俺は高校3年生になっていた。
特にやりたいことがあるわけでもなく、だらだらと学校に通い放課後と休日は鍛錬に費やすというルーチンワークで生きてきた。高校生になってからは師範の立場に就任させられ、お給料を父から貰えるようになったのは学生の立場としては非常にありがたいお話である。
しかし、お金の使い道もあまり思いつかず空いた時間にアニメや漫画そして、レイトショー限定でこっそり映画を観に行くことに消費されていた。
身長ももうすぐ180cmに届くというところまでの成長を見せ、顔付きも幼なさが気づけば抜け落ちてしまい、目つきの悪さからただ見ているだけの相手から睨んでいると思わせるような強面になってしまった。
学校には教師と特定のクラスメイト以外に声を掛けてくる人物もいなかった為にすっかり、コミュニケーションの取り方というものがわからなくなってしまった。
今となっては家族と道場で稽古をつけてあげている小学生の3人ぐらいにしか俺が口を開くことは殆ど無くなっていた。
そんなある日のことである。夏真っ只中にセミが「ツクツクボウシ、ツクツクボウシ、トッテモイイヨ、トッテモイイヨ、ンァッー」と鳴いているように聞こえるなー。などと本当にしょうもないことを考えながらリュックを背負い徒歩で学校に向かっている道中。
「いいじゃん、学校なんて適当に電話で休むって言えばサボってもバレねえよ!」
「マジ、一目惚れなんだよ頼むから今日一回でいいから遊ぼうぜ!お願い!!」
「私たち制服着てるの見えないの?JK相手に朝からナンパする人とかキモいんですけど」
「あの、ちょっと顔が好みじゃないんで無理です。ごめんなさい」
目の前でうちの学校の女子生徒2人相手に黒いアジデスのジャージを着たいかにもヤンチャそうな2人組がナンパしていた。
「とりあえず、ついて来てよ。今日だけでいいからさ!そこのコンビニに俺の車停めてあるんだよ。見えるよね。ホテルみたいに快適だから一回乗ってよ」
などと謳って無理やりに連れて行こうと男の1人が女子生徒の腕を掴んだところで、俺の手はその女子生徒を掴んでいる腕を掴んでいた。
「無理やりは良くないと思いますよ。ナンパしたかったらクラブでも行った方がいいんじゃないですか?行ったことないから知らんけど」
内心で面倒臭いと思いながらも介入してしまった。
「はあ?おまえに関係ねーだろ!」
「おまえこの2人の友達かなんかなの?」
ナンパ男達に言われて、友達など殆どいない俺は思わず女子生徒の顔を確認すると、なんとその2人の生徒はクラスメイトの金髪ギャル杉田さゆみと図書委員の斑鳩舞だった。
「友達じゃないけど、一応クラスメイトだからやめてもらってもいいですか?」
「クラスメイトってだけなら別にいいじゃん!ほっとけよ」
「とりあえず、その手離せよクラスメイト君」
そう言って、アジデスジャージAが空いているもう片方の腕で俺に殴りかかってきた。おそらく喧嘩慣れしてるのであろう躊躇ないパンチだったが、それをスウェーで躱し握っていた男の腕に力を込めると悲痛な顔で杉田さゆみから手を離した。
「てめぇ、なんて力してんだよ!!離せこらおい!」
「いきってんじゃねーぞカスが!ヤスから手離せよクソガキ!!」
どうやらアジデスAはヤスという名前らしく、アジデスBが俺に向かって殴りかかる。俺はアジデスAことヤスの腕にさらに力を込め引き込むことで盾に利用した。
アジデスBのパンチはヤスに遮られ俺に届くことはなく、俺はついでにヤスのアゴを左フックで撃ち抜いた。
ヤスは完全に膝から崩れ落ち失神してしまったのでヤスを握っていた手を離す。
「ヤス君に何しやがる!おいてめぇ殺すぞ!」
不安になったアジデスBは懐から折りたたみ式のナイフを取り出した。
「刃物出すとかマジかよ!ここ日本だぞ治安悪すぎだろ」
「俺らに手出してただで済むと思うなよ。この辺じゃ有名なサウザンツの一員だからな」
「サウザンツって何だよ?聞いたこともねーよ」
「この辺で一番でけえギャングだよボケ!俺らには50人の仲間がいるからな、おまえはもう終わりだよ」
「サウザンツっていうから千人かと思ったわ。紛らわしい名前つけんな!」
「いいからてめぇは死ね!」
アジデスBがナイフを俺の懐目掛けて、突き立てたが俺はバックステップし間合い計りナイフを握る手に蹴りを入れる。
痛みから握られていたナイフを思わず落としたのを確認したところで俺はレスリングの要領でタックルを仕掛け、アジデスBを路上に転がし、バックポジションをとりリアネイキッドチョークで完全に締め落とした。
ごろつきを制圧したところで絡まれていた女子2人に声をかける。
「杉田さんか斑鳩さんどっちでもいいけど、警察呼んでもらっていい?」
「あ、うん待ってね」
そう言って杉田さんが携帯を取り出した。
その後、アジデス2人組の履いていたスニーカーの紐を使い、目が覚めても大丈夫なように後ろ手に縛り拘束しておいた。
助けた2人の反応は違っていて、ギャルの杉田さんは俺に対して期待と何かが入り混じったような少しピンクっぽい色が見えるが斑鳩さんからは恐怖を感じている人特有の色が見えた。
通報を終えた後、警察を待つ間しきりに杉田さんが俺に声をかけてきた。
「東雲って、なんかやってんの?めっちゃかっこよかったんだけど」
「俺の家、武術の道場やってるんだよ」
「それでかぁ・・・刃物持った相手にも全然びびってないしすごすぎでしょ」
「み、見えてたからそんなでもないよ」
久々の話したことのない人間との会話にごろつき2人の対応以上に緊張していた。
そこからもギャルからの質問攻めに何とか答えていると警官が到着したので事情を説明したが、一応俺も警察に連行されることになった。
そして、警察所にてこの先ギャングに狙われ続けることになるかもしれないという面倒な事実を告げられる。
なんでも警察関係者の上の人物にサウザンツと繋がりがある人物がいるようで逮捕してもすぐに理由をでっちあげて釈放されてしまうらしい。
俺の信じていた治安のいい法治国家はどうやら無かったようだ。その話を伝えてくれた警官はその状況を是としない信用できる人物のようでひたすらに俺に謝罪していた。これからの生活がすごく億劫になってしまった。
次の日登校するとギャルの杉田さんがやたら絡んでくるようなったり、他のクラスメイトは余計に距離を取るようになったりと若干の変化はあったもののあまり気にしないようにしていた。
◇◇◇
そこから2ヶ月余りのことである。俺はサウザンツとかいうギャング集団を壊滅させた。
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