レジにうんこが落ちてます!
これはぼくちんが肉屋だった頃のお話です。
その頃ぼくちんは某巨大ショッピングモール直営の精肉コーナーで社員として働いておりました。
お肉を切断したりパックに閉じ込めたりズタズタのミンチにしたりして、それを善良な市民たちに言葉巧みに売り捌いたりしていました。
そんなある日、そのショッピングモールの事務所に行くと、パソコンの前で店長と副店長が爆笑していました。
気になったぼくちんは、数年間の接客業で培った丁寧な言葉遣いと言い方で店長たちに訊ねました。
「なんやおめーら、なに笑っとるんや」
すると、店長は涙を浮かべて嘔吐きながら、少しずつ話し始めました。
「ギャッホギャッホギャッホギャッホ!! ギャッホッホゥ!!! アーアア〜! ⋯⋯チャンポ!」
今耳を切られたら100%死ぬ! 神経集中させてるから! そこに私の全てがあるから! 絶対切らんといてよ! 絶対ね! というくらい全神経を耳に集中させて聞き取ってみたところ、数十分前に「セルフレジにうんこが落ちてる!」と通報が入ったらしく、副店長が見に行ったんだそうです。それで片付けて、事務所に戻って監視カメラを確認してみると、とんでもないものが映っていたといいます。
「ギャホホ(まあ、見てみてよ。それが一番手っ取り早いからさ)」
という店長のお言葉に甘えて、ぼくちんは店長を退かしてパソコンの前に座りました(目がめちゃくちゃ悪いのに当時は眼鏡をしていなかったから)。
再生してみると、いつものセルフレジが映し出されました。2人はすでに笑いを漏らしています。まだうんこらしきものは映っていないのに。
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このように並んでいる6台のセルフレジの左上の個体の前に、1人のおじいさんが現れました。
「この人、この人だよ!」
店長が笑いを堪えながら必死に教えてくれています。
「店長、ハードル上がりまくりですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫、超大丈夫! 極大丈夫!」
ここまでハードルを上げられたせいで逆に冷めてしまった私は、死んだハニワのような顔で画面を見ていました。
おじいさんがお会計を終えてレジを離れました。2人は爆笑しています。
「なに!? どゆこと!? もう始まってるの!? もしかしてもう終わってたりする!?」と焦りながら画面外へ向かうおじいさんを目で追い、いなくなってからさきほどのレジに目を向けると、黒くて丸いものがいくつも転がっていました。
なんで!? いつの間に!? 死角でおじいさんが持参したうんこを捨てたのか!? いや、このセルフレジのすぐ向こう側には従業員がいるぞ! さすがに目の前でうんこを捨てるなんてありえない!
「分かった?」
店長が嬉しそうな顔で聞いてきます。
分かったって何? 分かるとか分からないとかなの? これ。
「うんこマジシャンですかね?」
何もないところからうんこが現れた。ぼくちんにはうんこマジシャン以外に答えが浮かびませんでした。
「もう1回見てみようか。ズボンの裾に注目してて。右ね」
えっ。
また映し出されるセルフレジとおじいさん。
右足の裾を凝視していると突然、さっきの黒い物体が〈コロン〉と出てきました。
ファッ!?!?!?!?
おじいさんは普通にタッチパネルを操作していますが、裾からは次々と丸いうんこが出てきています。
「店長、なんですかこれ!」
爆笑より、不思議でした。もちろん面白かったのですが、「なんで?」の方が大きかったのを覚えています。
「多分ね、本人はうんこ出てるって気づいてないんだ」
「そんなことあります?」
「七宝ちゃんは若いから分からないと思うけど、歳とると色々あるもんだよ」
「ふーん」
「病気かもしれないから、あんまり笑わないであげてね」
ぼくちん店長の1/99くらいしか笑ってないんですけど⋯⋯。
「でも店長、うんこが勝手に出ちゃう病気ならオムツするべきですよね。他のお客さんが踏んじゃったら可哀想じゃないですか」
「それな」
「それにしてもあのおじいさん、水分足りてないんじゃないですかね。あんなコロコロのうんこで」
「それな」
「お肉って美味しいですよね」
「それな」
「イヌ!」
「それな」
「カワウソ」
「それな」
「生味噌」
「それな」
「なにくそーっ!」
「それな」
「ナン」
今日はキレイな満月だった。
うんこ関連の出来事は全て事実ですが、私の行動の一部には脚色を加えています。2割くらい。