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第7話 異世界なめたら死ぬよ?

 あれから30分ほどたっただろうか、向こう(バウガルド)時間では約300分、5時間と言ったところか。

 さっき3人が掛けていたテーブルの上にはまだ「バウガルドの酒場」の箱が置いてある。少しだけ開けて箱の中が見えるようにふたの部分を底の部分に斜めにずらしてかぶせられている状態だ。

 中からは淡い光が少し漏れている。

 

「初めてにしては結構時間かかってますね。あの子たち大丈夫ですかね?」 

店員のケイコ君がやや心配そうに私に声をかける。


「どうだい? 中の光はまだ3粒あるかい?」

私がケイコ君に聞くと、ケイコ君が蓋の隙間から中をのぞく。


「ああ、大丈夫です。まだ3粒ありますね」

「じゃあまだ、生きてるってことだ。もうしばらく様子を見るしかないね――」


 などと話をしていると、箱の中の光がやや強くなり、テーブルの3つの椅子の上に人型の光が現れた。光は3つだ。


「帰ってきました!」

ケイコ君が嬉しそうに叫んだ。


 やがて光はしっかりと実体化し、先程と同じ格好の3人が椅子に腰かけている状態になるのを確認できた。


「――戻ってきた、のか?」

「ああ、そのようだ、な」

「わぁ、もどれたぁ!」


「おかえりなさいませ~! どうでした? 見る限りでは無事そうですけど、怖い目にあったりしませんでしたか?」

ケイコ君が元気よく迎えてくれている。


「あ、ははは、じつはちょっとヤバかったです……」

「僕なんかもう死んだと思いました――」

「で、でも、めっちゃ強い人に助けてもらったんだよね?」


「“めっちゃ強いひと”ですか? あ、それってもしかして金ぴか鎧じゃなかったですか?」

ケイコ君がやや身を乗り出して3人に聞く。


「ああ、その人だと思います。たしかキョウヤさん?」

シンヤが答えた。


「ええ~~~!? いいなぁ、私まだ出会ったこと無いんですよ!?」

ケイコ君が悲鳴ともいえるような口調でうらやましがる。


「あのひと、そんなにすごい人なんですか? たしかにとても強そうで強力な魔法なんかも使えたりするみたいだったし……」

トオルが自分の右腕をさすりながら聞き返す。


「『竜撃』キョウヤ――バウガルドの英雄ですよ! なんでもバウガルドに数体しかいない竜の一匹を倒したって噂です。それで、『竜撃』という二つ名で呼ばれるようになったんですよ。たしか、東京の羽原支店から()()()してる方らしいです。ウチのチェーンではとくに有名なダイバーのうちの一人ですよ?」

ケイコ君の興奮は収まらない。


「そんなにすごい人だったんだ、あの人……。でもめっちゃ優しかったですよ? 助けてくれた上に、トオルの腕もくっつけてくれて、そのあと、お酒までごちそうになりましたし――」

サラが思わずこぼしてしまった。


「え? 腕、くっつけてもらったって、まさか――」

ケイコ君の両目が大きく見開かれる。


「ははは、面目ありません、僕、右腕を切り落とされちゃったんですよ――」

トオルが恥ずかしそうに打ち明けた。


「そうそう、ぼとって腕落ちたときは泣き叫んじゃった。でもその人、キョウヤさんが助けてくれたんです。で、トオルの腕も治療してくれました」

サラが笑顔で答える。


「腕でよかったですね……、首だったら今ここにいないところですよ?」

ケイコ君がさすがに引いている。


「ええ、それはキョウヤさんにも言われました。ただ、生きているうちにログアウトさえできれば、ケガはなかったことになるからと、ちゃんと帰還魔法の練習をするんだぞって、きつく怒られてしまいました……」


 シンヤのお調子もの感が若干影を潜めている。キョウヤにだいぶきつく怒られたのだろう。


 バウガルドに人間が渡航するようになってすでに数か月がたつ。

 最近では当初より「事故」も減ったが、向こうの人々の中にはわれわれ人間を快く思ってない輩もまだ多い。ダイバーは死にさえしなければ、どれだけ大怪我をしていても、再ダイブした時には完全に完治した状態で戻ってくることができる。

 しかし向こうの住人たちにはそんな「ボーナス」はないのだ。切り落とされた腕はもちろん戻らないし、見えなくなった目は死ぬまで見えないままだ。

「だったらせめて、恐怖だけでも味わえ――」と、わざと身体欠損をさせるやつもいるのだ。腕を切り落としたり、目をえぐったり――。

 向こうの世界でも住人同士の斬り合いで相手を殺せば、それは殺人になり、警吏の捕縛対象となり重罪にされる。

 なので、向こうの住人に街中で白昼堂々と殺されるということはめったなことでは起きないが、街を出ればその限りではない。人知れず――、ということは充分にある、そういう世界なのだ。


「そうですか。じゃあ、今日はここまででよろしいですか?」

ケイコ君はおそらく、この子たちはもう帰るのだろうとそう思って聞いたのだろう。


 しかし、その子たちの返事は予想を超えるものだった――。


「「「いえ! 延長でお願いします!!」」」


「めっちゃヤバかったんです! 次はこんなヘマはやりませんよ! まずは帰還魔法の練習をして慣れたらもう少しあの街を散策しようとみんなで相談してたんです!」


「せっかく、買ったあのコスチュームまだ全然着てないし、バウガルドで何ができるかもっと知りたいし――」


「なによりも、これからもダイブしてくる新人さんたちにちゃんと教えてあげないとと思ったんです。僕たちのようにならないように――ね」



 私はレジカウンターのこちらからそのやり取りを聞いていた。

 どうやらまた新しい冒険者が誕生したようだ――。



 バウガルド――こちらの世界では絶対にありえない体験ができる世界。

 さて、次の挑戦者ダイバーはどのような子たちだろうか――?



――――――



――バウガルド、はじまりの町ケルンから少し離れた森の中。


「ハァハァハァ――、どうだ巻いたか?」 

「あ、ああ……大丈夫そうだ――」


 そのような会話を交わしている二人の頭上からギラリと光る眼をした魔獣が覗き込んでいた――。


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