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ショートショート5月~3回目

お上品な女性

作者: たかさば

 大型スーパーのオープン前、立体駐車場と二階の入り口をつなぐ渡り廊下の上で並んでいると…ふと、純和風のいい香りがした。


 臭い袋かな?すごくいい匂いだ。

 香りの出所はどこかなと、目線を上に向けると…背の低い和装の女性が前にいる。


 スゴイな、髪が結ってある、ああ、びんつけ油の香りかも?

 てかてかと輝く、美しい黒髪!うわあ、こんなの間近で見たことない、思わずじっくりと見つめてしまうな。


 お召し物もかなりお高そうな感じだ、隣の洋装の女性と和やかにお話しをされていらっしゃる…。口元に手を当て、雅に微笑むそのお姿はお上品で…まさに大和撫子の佇まい。

 ああ、自分も小柄に生まれていたら、こんなにも美しく着物を着こなせていたであろうか…イヤ、絶対に無理だな。


 そんなことを考えていたら、入り口の自動ドアが開いた。ああ、もうオープン時間か。好奇心をくすぐるなにかを見つけると、時間ってあっという間に過ぎ去るよね……。


 並んでいたお客さんたちが、ぞろぞろと吸い込まれていく…ことはなく。


 皆さん、このご時勢なので…きっちり一列に並んで消毒スプレーに手を伸ばし、手をこすりながら入店していく。この店は、わりとマナーのしっかりしたお客さんが多いんだよね。


 がしょん、がしょん……。


 このスーパーの消毒スプレーは、フットペダル形式のものだ。

 ペダルを踏む事で、ノータッチで消毒液を手の平の上に噴射できる代物である。


 がしょん、がしょん……。


 おばあちゃんも、お姉さんも、奥さんも、おばちゃんも…皆さん軽快にペダルを踏んで入店していく。


 がしょん、がしょん……。

 がしょん、がしょん……。

 がしょん、がしょん……。


 かしょん、かしょっ、かしょっ……。


 うん?私の三人前で、ペダルを踏む音が変わった。


 かしょかしょっ、かしょっ……。


「あらやだ…消毒液が、出てこないわ?」


 和装のご婦人が、草履の先でお上品に踏んでも…何も出てこない。


「思いっきり踏むと出るのよ!!……ほら!!」


 お友達の奥さんが、アドバイスをしている。


「あら…そうなの?」


 がしょ!!ががっしょ!!


 ものすごい音がして、勢いよくスプレーが噴射されるのを、しかと見た。


「ホントだ、出たー!ウケる、出すぎ!」


 高そうな着物のまま、ものすごいガニ股で、桃色の肌襦袢まで見せつけながら……消毒スタンドのペダルを踏みつけた、女性の姿を、しかと見た。


 ……なんか、いろいろと、台無しだ…。


「あらやだ!!ずいぶん豪快ねえ、あなた!!!」

「ふふ…あはは!でしょう!ほら見て、両手びっしょびしょ!」


 陽気に笑う、お上品でいらした奥さまを……、そっと見送り。


 かしょっ、かしょっ、かしょっ……。

 かしょかしょっかしょっ……。


 ……なんだ、品切か。


 私は、スプレーの新品をセットしてもらうために、サービスカウンターに向かったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] あら……。 それは残念な方もいらっしゃるでございますですわねー。お上品に振る舞わねば、なりませんねー。ね〜。
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