79.敗走
「来たぞ!ギッテンスは居るか?」
「はい、一番後方に。
敵は1000弱。
数人の魔法師も含まれています」
アンバーの声に敵方に侵入していた斥候が答える。
1000騎の騎兵が土壁前に陣形をとる。
そして最後尾は何故か4頭立ての馬車での登場だ。
それも軍事用では無く、王宮の夜会用とも言うべき華美な造りだ。
「何か勘違いしているようだな」
王太子とデュランに脇を固められたわたしも口をポカンと開けて首を傾げた。
場にそぐわないというか、勘違い甚だしいと言うか。
やがて敵方の数人の魔法師と兵士が前にゆっくり進んで来るが様子がおかしい。
全く攻撃を仕掛けて来ないのだ。
「どうしたんだ?
また催眠魔法か?
それとも油断させる戦法か?」
デュランが首を捻る。
するとギッテンス陣営の魔法師と兵士1000人近くは一斉に武器を置き、跪いた。
「投降します!
我々はこんな事望んでやっていたわけじゃ無い!
ギッテンス公爵が怪しい魔法で家族や民を人質に取っていたから抵抗出来なかっただけなのです!」
兵士の中でも地位のありそうな人が叫んだ。
「信用して大丈夫でしょうか」
アンバーがジェンキンスのおじさまに尋ねる。
「あの男には前に会った事がある。
ギッテンスの下で働く以前は憲兵団で活躍していた。
実直で嘘をつくような男では無かった。
闇魔法の気配も感じない。
投降を許そう」
アンバーは頷き、投降者たちに叫んだ。
「投降する者は武器を置いたまま、手を頭の後ろに組みこちらへ来い」
投降者たちはホッとしたように頷き合い、ゆっくりと立ち上がりこちらへ歩いて来ようとした。
その刹那
ゴォーーーという音と共に投降者の背後から炎が迫った。
「やめろ!」
次の瞬間、投降者の後ろには大きな土壁が形成されていた。
「後ろから襲うなんて卑怯な!」
騎士団長さんらしき人が怒っている。
「怪我は無いか?」
アンバーが投降者たちに問いかけると、呆然となす術無く立ちすくんでいた彼らが我に返る。
「急いでこちらに来い!
どうやらギッテンス公爵は見境が無い馬鹿者のようだ。
怪我人は救護班!対応しろ」
アンバーがテキパキと指示し、投降者たちを後方の空き地に移動させた。
「ギッテンス公爵、性根腐ってるな」
デュランの言葉に首振り人形みたいに頷いてしまう。
「だが、そもそも戦力的にも無謀な反乱だったんだ。まぁ、油断して砂煙に殺されそうになったのは大失敗だったけど」
そうだよ、油断は禁物。
しかし、いつまで経っても土壁の向こうから、ギッテンス公爵は現れない。
「まさか?」
「それは無いだろう?」
いくらなんでもそれは無い。
これだけの民とこれだけの兵を巻き込んで、自分たちだけ逃げるなんて。
「ギッテンスが敗走したぞ!」
叫び声が聞こえたと思った瞬間、先陣から数騎が
土壁の向こう側へ駆けていくのが見えた。
キラキラと輝く髪、エリオットが先頭だ。
「エリオット」
後ろ姿はやがて土壁に隠れ見えなくなる。
心が不安で一杯になり、思わず手を握りしめた。
「大丈夫だ。
アンバーもスタンリーも行った」
王太子が優しく頭を撫でて微笑む。
そしてその通り、大した時間も掛からずに、ギッテンス公爵とその配下の魔法師二人が捕縛され、
連れて来られたのだった。
「わ、わしは悪くない!
正当な王位継承権があるのだ!
わしが王に成るべきなのだ!」
いきりたつギッテンス公爵はガマガエルみたいだ。
言っている事もめちゃくちゃだし。
「お前の王位継承権はとっくに剥奪されているぞ?」
アンバーが楽しそうにせせら笑った。
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