6.婚約成立?
翌朝、早い時間におばさまが侍女数人を引き連れてわたしの寝室へやって来た。
「ロージー、支度をするわよ」
おばさまと侍女たちにあっちこっち引っ張られこねくり回され気づくと鏡に見た事も無い美しい令嬢が映っていた。
「だ、誰?ウソだ」
あまりの美しさに唖然としているとおばさまが笑う。
「ロージーはもともと綺麗だけど、お手入れとか着飾るとかは全然だったでしょう?磨けばこれ程になるのよ」
嬉しそうだ。
サロンで待っていたジェンキンスのおじさまとエリオットとデュランは変身したわたしをみて目を見開いた。
「これは美しい」
「うちのロージーは何て可愛いんだ!」
「うるさい仔犬が上品な猫になったようだ」
何だかひとりに聞き捨てならない事を言われたが気分が良いわたしは聞き流す事にした。
「エリオットったら、ロージーがあまりに綺麗だから照れ隠しにあんな事言って」
おばさまが耳元でそっと囁くけど、照れ隠しじゃないですよ。
エリオットがわたしに照れるわけがない。
エリオットは貴族院に提出する書類と指輪を用意していた。
後見人としてシモンズの叔父さまの署名は貰ってあると聞いてその手際の良さに驚く。
デュラン宛のあの手紙に書類が同封されていたらしい。
もっとびっくりしたのは指輪だ。
国宝ですか?と聞きたくなるほど大きな一粒石のサファイア。
エリオットの瞳の色だ。
「これは我が家の家宝なのよ。
ロージーにぴったりね」
おばさまはにこやかに仰るがこの大きさは指が疲れそうです。
「あの、流石に公爵家の家宝はバチが当たりそうで」
「この指輪では不満か?」
「いえ、わたしには分不相応かと」
「公爵家に嫁ぐのだから相応だと思うが」
そう言ってエリオットはわたしの薬指に家宝を嵌め、軽く唇に口付けた。
『えっ!』
固まるわたしを他所に、おじさま、おばさま、デュランはにこやかに見ている。
エリオットは唇を離すとこれで婚約成立だと微笑んだ。
「陛下にも事前に許可を頂いてあるから」
「…陛下?」
「公爵家の婚姻は陛下の許可が必要だからね」
エリオットは平然と言ってのけるが、待って、それじゃおいそれと婚約解消とか出来ないじゃない!
「もちろん解消するにも陛下の許可を得なければならない」
耳元で小さく囁くエリオットの瞳がキラリと光る。
でも、最終的に困るのはエリオットだと思うけど王族だから婚約解消も簡単なの?
もしかしてわたし大変な間違いをしたんじゃないかと嫌な予感に震えた。
そして簡易な婚約式から数日後、エリオットとわたしは夜会へと出向くために馬車に乗り込んだ。
わたしはもちろん、ジェンキンスのおばさまによって、美しい令嬢に変身している。
これなら少しくらいはエリオットのパートナーとして相応しく見えるかもしれない。
あくまで希望だけど。
そうここまでが、ロージーとしての記憶。
この後、馬車の中で頭をぶつけ、転生前の記憶が甦る事になった。