クリスマス。
ある男の子の、クリスマスのお話です。
もうすぐ、クリスマス!
自分にとって、15回目のクリスマス!
イルミネーションが夜の中できらきら輝き、
ツリーのオーナメントがゆらゆら揺れて、
ぼくの心はふわふわ浮いているみたいだ!
なぜなら、僕はいい子にしているから。
母さんが、言ってた。
『サンタさんは、いい子にプレゼントをあげるのよ』
と。
僕はこれまで、ずっといい子にしていた。
学校では自分から勉強して掃除して、
友達の言うことに合わせて空気を読んで、
先生の言うことをしっかり聞いて、
帰り道は寄り道せず真っ直ぐ帰って、
酒臭い家を掃除して、
叩いて殴ってくる家族を受け入れて、
いつも笑顔で、
黙って従順で。
「よし!今日はイヴの日!」
「うるさい。」
注射器片手に父が言った。
そうだ、家で声を出しちゃダメだった。
15年もやってきたことなのに、まだ慣れないなんて
馬鹿だなあ。
自分を小さく笑って自室に引っ込む。
でも今日はラッキーデーだ。
うるさくしても父は僕を殴らなかったから。
クスリ始めてから、殴る回数減ったなあ。
そんなことより。
ああ、楽しみだなあ。
これまで一回もクリスマスにプレゼントなんて
なかったけど、それは、僕が悪い子だったからだ。
「さ、9時にはベットに入っておかないと、
いい子じゃなくなるな。」
ベットに視線を向けた。
布切れをかき集めた床に寝転び、
目を閉じる。
大丈夫、大丈夫。
靴下も置いておいたし、欲しいものもちゃんと書いた。
_______だから、大丈夫。
目を開けると、煙草と酒と、クスリの匂いがした。
あーあ。せっかく洗濯したのに、匂いが染み付いちゃった。
残念に思いながら、横の靴下を見る。
何も、入っていない。
靴下を手に取ると、穴がぽっかりあいていた。
靴下も、僕のこころの穴も。
「何をしても……僕は悪い子、かあ。」
目を閉じる。
クリスマスの鈴の音が響く中で目を閉じた彼は、
以降、目覚めることはなかった。
段々と腐りゆく彼の手には、紙切れが一枚握られていた。
震えた字体で、書かれていた。
『愛をください。』
と。