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鏡に写る私

作者: さばみそ

風が気持ちいい。いつ以来だろう、こんな風に感じられるのは。鏡に写る私は、この20年で一番清々しい顔をしていた。

思えば、私はいつも行動が遅すぎた。学生の時は、大好きな先輩に告白するのをためらい、気づけば後輩と付き合っていた。後に、実は私のことが気になっていたと聞いて後悔した。大ファンの歌手のコンサートがあると知った時は、厳しい親を恐れてチケット購入の電話すらかけられずにいた。後に、落ち込んでいる私を見てどうしたのかと聞かれ、事情を話すと「ちゃんと話してくれれば許可します」と逆に怒られたっけ。

結婚して間もなく子供が生まれ、家族のために頑張って働いてくれた主人。おかげで生活に困ることはなかった。でも、ただひとつだけ気になることがあった。私は、いわゆる潔癖症とまではいかないが、きっちりしていないと落ち着かない性分なのだ。本は順番どおり本棚に収まっていないと気持ちが悪いし、リモコン各種は所定の位置にないと落ち着かない。主人はその辺が雑だった。でも、私たちのために遅くまで仕事を頑張って帰ってきている。そう思うと、なかなか注意が出来ない。私がため息まじりに片付けると「ごめんごめん」と優しい笑顔で謝ってくれる。だから許せていたし、片付けも楽しんでいられた。しかし、子供たちも自立し目的もなく働く主人。趣味も特になく、疲れて帰ってきては無言でだらける。雑さは以前よりも酷くなり、むしろわざと散らかしているのではと感じるようになってしまった。鏡に写る私の顔は酷く疲れており、精気を失いかけていた。

今日、私は意を決した。主人に思いの丈を打ち明けたのだ。ああ、もっと早く言っていればよかった。本当に私は行動が遅い。主人も安らかな顔をしている。その顔をそっと撫でる。

さて、心機一転。まずはもう使うこともない立派な灰皿と、この主人(粗大ごみ)をさっさと片付けないと。

鏡に写る私の顔は実に晴れやかだった。

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