―――ズリ。ズリ。
それはゆっくりと近づいてくる。
―――ズリ。ズリ。
と。
心霊スポット巡りが趣味の男は、この日も1人で山奥に来ていた。自家用車を運転し、道路があるところまでは車で向かう。それ以上車両が進入できないようなら、そこからは徒歩が基本だ。
今回の目的は、山奥の廃病院。かなり昔に、精神病の患者を収容していた所だそうだ。その病院では、精神をわずらった患者達が、そこに勤務していた看護師の足を噛みちぎる事件が起こってしまった。患者に話を聞いたところ無性に足の肉が食べたくなるらしく原因は不明。患者を何度入れ替えても事件は起きてしまうため、病院の評判も落ち、最後には廃業に追い込まれたようだ。
―――ズリ。ズリ。
ナニカがゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。姿は見えないが音だけが響いていた。
男が走る。すると音が聞こえなくなった。
少し息を整えると、また近くで音がする。
―――ズリ。ズリ。
こんな事ならば、奥まで来るんじゃなかった。窓から出ようにも、鉄格子がはまってるし、元来た道を戻ろうにも、ナニカに知らない道の方に追い詰められている。そして思っていたよりも院内が広く、廃院になってから年数がたちすぎていて、足元も悪い。
ナニカの姿を見ようにも見れない。見たら終わりな気がするし、姿が見えない可能性もある。謎の恐怖が男の心を支配した。
奥に進んでいく道しか残されていないため、どんどん奥に進む男。しかし、足場が悪く、これ以上進めそうになかった。
まいったねこりゃ。
―――ズリ。ズリ。
―――ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。
―――ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。
突然、耳元で聞こえたと思ったら、今度は、急に何も聞こえなくなった。先ほどまでの恐怖が嘘のようだ。心もいつも通り。いや、いつも以上に落ち着いている。
ああ、腹が減った。
ここに人がいたら良かったのに。
そして男は歩き出した。
―――ズリ。ズリ。
と。